ロンドン五輪:体操「金」梁鶴善、貧民街少年の奇跡

 全羅北道高敞郡のバスターミナルから田舎道を車で20分ほど走ると「ナムドンマウル会館」が見えてくる。ここからさらに未舗装道路を5分ほど歩いていくと、トウガラシやゴマの葉の畑が広がり、その横にぽつんとビニールハウスが立っている。犬がほえる中、ビニールハウスの中から背の低い夫婦が出てきた。

 ビニールハウスの中に入ると、小さな部屋が一つある。7日にロンドン五輪体操男子の種目別跳馬で、韓国の体操史上初の金メダルを獲得した梁鶴善(ヤン・ハクソン)=20、韓国体育大学=の両親が、ここで暮らしている。両親はこのビニールハウスを「息子の名誉の殿堂」に作り変えていた。梁鶴善のメダルと写真が花柄の壁面いっぱいに飾られている。

 光州広域市の貧民街で左官工や工場作業員として働き貧しい生活を送っていた両親は2年前、梁鶴善が出してくれた金と、それまでためた全財産を合わせ、高敞郡に1万平方メートル規模の畑を買った。近くには住宅用の小さな土地も購入したが、まだ家を建てる余裕がないため、畑の横にビニールで建てた仮の住まいで暮らしている。連日の猛暑で、ビニールハウスの中は釜のようにひどく蒸し暑かった。

 身長159センチの梁鶴善より一回り以上小柄に見える母親キ・スクヒャンさん(43)は、はきはきとした口調で話した。「私たちがこんなにみすぼらしい生活をしていることが、息子にとってマイナスにならないかと心配した。だが息子は『全く恥ずかしくない。たくさんインタビューを受けてほしい』と言ってくれた」

■苦しかった貧困生活

 梁鶴善が育ったのは、光州広域市西区にある「タルトンネ(月の町、の意。貧しい人々が丘の斜面に沿って粗末な家屋を建てた地域)」と呼ばれる貧民街だ。梁鶴善の家は、中でも最も狭い路地の一番奥にあった。すぐにでも天井が崩れ落ちそうなバラック小屋のような家に、両親と兄、梁鶴善の一家4人で暮らしていた。梁鶴善が7歳のとき、それまで住んでいた家が再開発で取り壊されることになり、町の長老が「空き家があるから」と無料で入居させてくれたのだという。

 工事現場で働く父親は体調が悪く、家で横になっている日が多かった。母親は工場や食堂などで必死に働いたが稼ぎは少なく、生活保護の受給対象からは一向に抜け出せなかった。宙返りが得意だった少年・梁鶴善にとって、体操は唯一の道だった。特別な道具も必要なく、お金もさほど掛からないスポーツだからだ。学校で合宿生活を送るようになったことで寝食が保障され、時には奨学金も支給された。

崔秀賢(チェ・スヒョン)記者
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  • ロンドン五輪体操男子の種目別跳馬で、韓国体操史上初の金メダルに輝いた梁鶴善の母、キ・スクヒャンさん(写真左)と父のヤン・グァングォンさんが、現在暮らす全羅北道高敞郡のビニールハウスの前に並んで立っている。母のスクヒャンさんは「金メダルを取った孝行息子が『新居を建てて、お父さんとお母さんの名前を刻んだ表札を掲げる』と言ってくれた」と笑顔で話した。/キム・ヨングン記者

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