【萬物相】「生存水泳」

【萬物相】「生存水泳」

 小学校の時、夏休みになるといつも小川や貯水池で水遊びをしていた。だが、遊び友達のうち1人は必ず高い所で見張りをしなければならなかった。水の事故が起こってはならないとして学校が水遊び禁止令を出し、教師たちが自転車に乗って見回っていたからだ。始業式の日、禁止令を破った子どもたちは次々と呼び出されてしかられた。それでも、あのころ水遊びをしたおかげで水に対する恐怖心はなく、水に浮いていられるようになった。

 ハーバード大学を卒業したハリー・ワイドナーは1912年、27歳の時にタイタニック号沈没事故で犠牲になった。家族と英国旅行に行った帰りだった。生き残った母親はハーバード大学に資産を寄付し、息子の名前を冠した図書館を作った際、条件を付けた。その一つが「ハーバード大学の学生は卒業前に水泳を習わなければならない」というものだった。息子が泳げたなら助かっていたかもしれないと思ったからだ。ハーバード大学は水泳を必須科目に決めたが、障害のある学生への差別だと抗議されて廃止したそうだ。

 教育部(省に相当)は「2018年までに全小学生が3-6年生の時に40時間以上の水泳講習を受けるようにする」と発表した。さまざまな泳ぎ方を教えるのではなく、おぼれた時に救助者が来るまで持ちこたえられる「生存水泳」を中心に教育するとのことだ。今はソウルをはじめとする一部の小学校で3年生に12時間水泳を教えている。初心者が12時間習っても、補助板をつかんで25メートル泳げるという程度だ。そのレベルでは補助板がなければ水に浮いていられないという。

 先進国ではかなり以前から「生存水泳」を教えている。日本では1955年に修学旅行中の小学生ら168人が船舶衝突・沈没事故で死亡したのを受け、すべての小学校で水泳の授業が強化された。英国のイートンスクールでは実際の川を1.6キロメートル泳いで渡ることができるようになるまで水泳教育をする。運河が多い「水の国」オランダでは、小学校1年生から水泳を教え、2年生の時には服を着て靴を履いたまま25メートル泳ぐ試験に合格しなければならない。どんな泳ぎ方でもいいとのことだ。

 専門家は「生存水泳の基本は周辺の浮遊物をつかんで浮いていることだ」と言う。浮遊物がない場合は、体を横にして浮き、バタ足だけしながら救助を待つのが良いが、初心者にとっては容易ではない。生存水泳教育は、昨年の貨客船セウォル号沈没事故を受けて考え出されたものだ。こうした教育を早くからしていれば…という思いはセウォル号事故だけにとどまらない。中年以上の世代では水を怖がる人が多い。子どものころ、両親が川や海に行かせなかったためだ。学校で生存水泳を教えれば「水恐怖症」から脱することができる上、生活の質もずっと豊かになるだろう。

キム・ミンチョル論説委員
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