ソウル市内で個人タクシーをしているキム・チュンガンさん(63)は数カ月前の未明、酒に酔った40代の男性を乗せた。目的地である京畿道平沢市内に向かう途中、この乗客は「用を足したい」と車を降りると言い出した。「走行中なので難しい」と答えたところ、乗客は運転していたキムさんに向かってカバンを振り回した。このため、バックミラーが壊れただけでなく、バッグの中にあった焼酎の瓶の破片でキムさんの額が切れた。やっとのことで車を止められたものの、まかり間違えば大事故につながる恐れがあった。キムさんは「被害が大きくないという理由で加害者の乗客は逮捕されなかった。運転手に対する暴行は事実上の『殺人未遂』なのに処罰が軽すぎる」と憤っている。
タクシー運転手に対する暴行が相次いでいる。今年4月、ソウル市恩平区のあるマンション近くで70代の運転手が目的地をめぐり30代の男に殴られて死亡した。5月にはソウル市西大門区で60代の運転手が酔った20代の男に殴られて意識不明に陥った。警察庁は「バス・タクシー運転手に対して暴力を振るって検挙された人数は2015-17年の3年間で9251人に達する」としている。一日平均8人という計算になる。
運転手に対する暴力が後を断たない原因の1つに、加害者に対する処罰が軽い傾向にあることが挙げられている。法律上、タクシー・バス運転手に対する暴行は特定犯罪加重処罰法が適用され、単なる暴行より重い5年以下の懲役または2000万ウォン(約200万円)の罰金に処せられる。しかし、実際に厳罰に処せられるケースは多くない。警察関係者は「道路の真ん中で運転中の運転手を殴るなどのケースを除けば、実質的に脅威を受けた程度がそれほど大きくないと判断され、逮捕にまでは至らないことが多い」と話す。加害者と和解したり、停車中に暴行が発生したりした場合は単純な暴行が適用されるケースが多い。逮捕率は0.7-1%程度だ。