その後、グループは大使館から近い場所で車を乗り捨てて逃走した。アドリアン容疑者は「オスワルド・トランプ」という偽名で予約したレンタカーでポルトガルのリスボンに移動。2月23日に米ニュージャージー州ニューアーク行きの飛行機で米国に向かった。残るメンバーが共に移動したかどうかは確実ではない。米国に到着したアドリアン容疑者は2月27日、米連邦捜査局(FBI)と接触し、北朝鮮大使館から持ち出した物品と情報を手渡した。ニューヨーク・タイムズによると、アドリアン容疑者が手渡した情報には大使館襲撃当時に入手した映像資料が含まれているという。北朝鮮大使館のパソコンなどに保存されていた動画資料を渡したと推定される。
スペイン現地の消息筋によると、北朝鮮大使館が人影のまばらな郊外の住宅街にあり、普段から警備が緩かったという。スペイン当局は、アドリアン容疑者が北朝鮮大使館から脱北を希望する職員と事前に接触していた可能性があると指摘した。スペイン当局による事件発表直後、大使館襲撃事件の背後に関与を表明した反体制組織「自由朝鮮」(旧千里馬民防衛)は、事件の3日後の2月25日にウェブサイトに「我が組織はある西側国家にいる同志たちから支援要請を受けた。危険度が高い状況だったが対応した」との声明を掲載した。声明やスペイン側の発表からみて、自由朝鮮が脱北を希望した北朝鮮大使館関係者と事前に連絡を取り合い、当事者を連れて逃走した可能性も否定できない。