「苦難の行軍」を経る中で急速に拡散
家で鎮痛剤としてヒロポンを使うことも
韓国で収監された脱北者の33%は麻薬犯
「どうして麻薬に手を出すようになりましたか」(捜査官)
「北朝鮮ではヒロポンを鎮痛剤代わりに投薬します」(脱北者Aさん)
北朝鮮産ヒロポン密輸・流通の容疑者に対する検察の取り調べの過程で、このような対話がやりとりされた。北朝鮮では、ヒロポンに脳卒中・脳出血のような血管疾病を防いでくれる効果があると考えられていて、各家庭に常備薬として置いてあり、実際に使うこともよくあるということだった。一部地域では、そもそも「万病通治薬」と呼ばれているという。
これを裏付ける韓国の統計もある。北朝鮮人権情報センターが最近、脱北者1383人を対象に行った調査によると、1990年代以降の脱北者のうち、北朝鮮で麻薬を直接使用したり投薬行為を直接目撃したりするなど「直接・間接麻薬経験」を持つ人の比率は16.5%だった。この比率は、2010年代に入ると急激に上昇した。1990年代の脱北者群では4.7%、2000年代の脱北者群では7%だったが、10-12年には13.6%に増えた。さらに13年には20%を超え、15年には36.7%まで跳ね上がった。15年以降韓国の刑務所に収監された脱北者のうち、およそ33%は麻薬事犯だという統計も最近出てきた。
脱北者らによると、最近北朝鮮で最も多く流通している麻薬はヒロポンだ。氷のかけらのように見えるということで「氷」と呼ばれ、麻薬の販売所を「氷屋」と呼ぶという。10回使えるヒロポン1グラムの価格は15ドル(約1610円)の水準といわれる。
輸出用に製造されていた麻薬が北朝鮮内部に広まり始めたのは、「苦難の行軍」と呼ばれた1990年代末の北朝鮮食糧難の時期からだ。工場でヒロポンを作っていた技術者たちが、ヒロポンを少しずつ着服し、村の人々に売り始めたのだ。
最近、住民らの麻薬中毒問題が深刻になったことから、北朝鮮当局も厳しい取り締まりに乗り出しているという。1990年代の時点では司法執行全体の0.8%でしかなかった麻薬事犯の処罰は、2000年代には9.3%、10年以降は20.3%を占めるほどに増えた。