【萬物相】北朝鮮外交官の「人質家族」

 中国で知り合った北朝鮮公館の職員がある日「容量が大きい蓄電池を買ってきてもらえないか」と頼んできた。理由を尋ねると「息子が北朝鮮で平壌外国語学院の入試に向け準備しているが、停電になっても夜中に机で明かりを照らすには大きな蓄電池が必要だから」ということだった。韓国の外国語高校に相当する外国語学院を卒業すれば、外交官や貿易担当者などになり海外に出やすくなる。金もうけと出世のチャンスに直結することから「入試競争があまりにも熾烈(しれつ)」ということだ。

 2018年11月にローマで姿を消したチョ・ソンギル元イタリア駐在北朝鮮大使代理夫妻が、昨年7月に韓国に亡命していたことが伝えられた。しかしイタリアで一緒にいた娘は連れてこられなかった。当時イタリア外務省は「チョ大使代理が姿を消した直後、娘は北送された」と説明した。娘と共に脱出するための計画に、予測できなかった問題が生じたのだろう。亡命したチョ大使代理が韓国政府に「秘密を守ってほしい」と求めた理由は、人質になった娘の安全をチョ大使代理が心配したからに違いない。チョ大使代理と外国語学院で同期だった太議員は「北朝鮮はチョ大使代理の娘を厳しく処罰するかもしれない」と懸念している。

 絶対権力者が首都を離れる官吏の子女を「人質」として捕らえるのは、日本の幕府封建時代の悪習だ。「おまえが俺を裏切るなら、おまえの家族の命が危うくなる」という一種の脅迫だ。今どこの文明国がこのような蛮行をしているだろうか。チョ大使代理夫妻は今も胸が張り裂けそうな気持ちのはずだ。

アン・ヨンヒョン論説委員

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