現代国家では通常、他国の政府を相手にした訴訟は成立しない。国際法上、他国政府に法的責任を問えないとする「主権免除」条項が適用されるからだ。しかし日本の裁判所は「北朝鮮は国際的に未承認の国」という原告弁護団の主張を受け入れ、正式な裁判を決定した。
北朝鮮へ訴状を送る方法がないことから、裁判所の掲示板で訴状受理の事実を知らせる「公示送達」方式を採択した。2015年、北朝鮮に抑留されて死亡した米国人大学生オットー・ワームビアさんの両親が北朝鮮の金正恩国務委員長を相手取って訴えを起こし、勝訴したことも、今回の裁判の開催に影響を与えた。米国に続いて日本でも類似の判決が出る可能性が高く、北朝鮮政権にかなりの圧力として作用する見込みだ。
被害者・支援者らは、正式な裁判が実現したこと自体に大きな意味を付与した。過去20年間、帰還事業被害者の法的な戦いなどを支援してきた山田文明・元「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」代表は「北朝鮮政府の法的責任を問う裁判が日本で開かれることになっただけでも、感無量」と語った。ヒューマン・ライツ・ウォッチの土井香苗・東京ディレクターは「原告らの証言は、北朝鮮の帰還事業が『人権の災厄』である点をあらためて確認させた」とし「岸田文雄首相は北朝鮮政府に対して帰還事業被害者とその家族の日本帰還を要求すべき」と主張した。