【萬物相】消えたミツバチ

【萬物相】消えたミツバチ

 ハチは、世界におよそ2万種類が生息している。そのうち、人間の舌に楽しみを届けてくれるミツバチはアピス(Apis、ミツバチ属)のおよそ10種類。韓半島では2000年前から土着品種のハチを飼育し、100年前からは西洋のハチも輸入して蜂蜜を取っている。花が咲くと、ミツバチは最大4キロ先まで飛んでいって蜜を集める。「小さな翼で力を尽くし、とても疲れてしまったけれど/はるか遠くの国まで花を探して…」という童謡「ミツバチの旅行」の歌詞そのままだ。

 人間は、ミツバチのそのがんばりに頼って豊かな食卓を享受してきた。食糧・果実・飼料用作物の30%が、ハチによる受粉に依存している。ミツバチが人間に提供する経済価値は50兆ウォン(約4兆8000億円)を超えると推算されている。共同体に献身し、協同するミツバチの生態は芸術的想像力の源ともなってくれた。リムスキー・コルサコフのオペラ『サルタン皇帝』で演奏される「熊蜂の飛行」は、ピアニストの素早い手さばきでぶんぶんというハチの羽ばたきの音を表現している。歌謡「スズメバチ」は、土の中に巣を構えて辛抱強く生きていく「クロスズメバチ」から着想を得た。

 米国で2006年、ミツバチが大量死しているという事実が初めて報じられた。2010年代に入ってから最近までの間に、40%も減少したという。欧州やアジアでもハチの個体数が減っている。ハチは1、2匹ずつ減るのではなく、ハチの巣単位でまるごと消えてしまう「蜂群崩壊症候群(CCD)」を示すのが特徴だ。花を探しに出掛けたハチが巣に戻れなくなり、ハチが姿を消してしまう。学者らは、無線装備から発生する電磁波や特定の農薬がハチの帰巣を妨げていると疑っている。

 ネオニコチノイドという農薬に汚染された花粉を食べたミツバチは帰巣能力を失う、という事実も新たに明らかになった。現在、欧州では、この成分を含む農薬はビニールハウス内に限って使えるという制限をかけている。韓国でもハチの集団斃死(へいし)が発生したが、原因は異なる。十数年前、「ハチの口蹄疫(こうていえき)」と呼ばれる「サックブルード病(SBV病)」により土着品種が90%以上も斃死した。2010年以前の時点で42万個あまりに達していたハチの巣箱が、一時は1万個にまで急減した。

 ようやく被害を回復した韓国の養蜂業界に、再び緊張が走った。今冬、慶尚南道・全羅南道一帯で冬を越していた数十万匹のミツバチが姿を消した。サックブルード病が原因なら、巣箱の周辺にハチの死骸があるはずだが、11万個の巣箱が空になってしまったのに原因も分からない。専門家らは、秋にまかれた殺虫剤の影響で帰巣できなかったか、異常気象で季節を錯覚したハチの群れが外に出てどこかで死んでしまった可能性を調べている。どのケースであれ、人間が招いた環境災厄の可能性が高い。

金泰勲(キム・テフン)論説委員

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