【寄稿】「韓国は北朝鮮より優位」という包容政策の前提が崩壊した(下)

ここ3年で61発のミサイル挑発
これを「対話再開に向けた北朝鮮のメッセージ」と考えるのはそれこそまさに「特等の愚か者」
圧倒的な北核抑止力があって初めて交渉も可能

 脱冷戦の時代はすでに終わった。米国と中国の覇権競争が本格化し、ロシアによるウクライナ侵攻は新冷戦時代の到来を告げ、北朝鮮、中国、ロシアの連帯強化を予告している。北朝鮮は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を4回も発射したが、国連安全保障理事会はメディア向けの発表文さえ中国とロシアが拒否したため出せなかった。中国とロシアが北朝鮮にとって頼もしい後ろ盾となるそのような世界になったのだ。今後は北朝鮮に対する効率的な国際協力が可能かさえ予想できない。しかも「韓国は北朝鮮よりも優位」という包容政策の最大の前提まで揺らいでいる。最も根本的な軍事バランスにおいては戦術核で武装した北朝鮮軍の登場により「韓国が有利」とはこれ以上言えなくなった。韓国社会が世代、ジェンダー、地域、イデオロギーなどで激しく分裂している今の状況では、体制の優位を語ることは難しくなっているのだ。

 韓半島問題の主人意識が欠如していた。国民生活に決定的な影響を与える韓半島の政治問題、軍事問題は米国と北朝鮮に丸投げした。これは主権国家のやるべきことではない。その一方で歴代政府はいずれも南北協力や対話に力を注いできた。過去30年の経験は「非核化が実現しなければ南北協力事業は不可能」という事実をあからさまに示した。国際社会からの制裁で今なお誰も北朝鮮に投資しようとはしないし、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)も投資しない。文在寅(ムン・ジェイン)政権でさえたった一つの協力事業もできなかった。一方で北朝鮮体制の耐久性に対する過大評価も避けねばならない。「北朝鮮崩壊論」も問題だが、「北朝鮮は絶対に崩壊しない」と信じることも間違っている。間違った政策と暴政が続けば、政権が崩壊するのは古今東西の真理だ。

 次の政府は対北朝鮮政策の徹底した再検討により適切かつ最適な対北朝鮮政策を模索しなければならないだろう。まず第一に対北朝鮮政策を通じて得ようとする目標を明確にすべきだ。ただし対話や首脳会談が目標になってはならない。第二に韓半島問題においては仲裁者ではなく主人にならねばならない。主権と国民に責任を持つことは国としての基本的な姿勢だ。同盟も重要だが、韓国と米国の利害が全ての面で一致することなどあり得ないし、米国の孤立主義傾向にも留意すべきだ。つらく時間もかかるだろうが、主人になってこそ北朝鮮問題の解決は可能だ。最後に国民の安全を最優先とする圧倒的かつ効果的な北朝鮮抑止力を早急に持たねばならない。北朝鮮の戦術核部隊が実戦配備された今の状況では、それに対する効果的な抑止力があってこそ北朝鮮の核問題を中長期的かつ平和的に解決できる。圧倒的な抑止力があってこそ、時間をかけた果敢なインセンティブ(誘因策)を交えた大胆かつ柔軟な交渉が可能だ。それがなければ対北朝鮮政策は机上の空論になってしまうだろう。

尹徳敏(ユン・ドクミン)韓国外国語大学碩座教授・元国立外交院長

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