【萬物相】保険犯罪全盛時代

【萬物相】保険犯罪全盛時代

 投資の天才、ウォーレン・バフェット氏の草創期の資金源は保険会社だった。彼は保険料を先に受け取り、保険金支払いまで利息を支払わずに顧客の資金を活用できる保険会社の財務構造に注目した。保険会社の「眠った資金」を元手に活用したのだ。保険会社のそうした資金は詐欺犯の標的にもなる。数カ月だけスズメの涙ほどの保険料を納め、数百倍の保険金を手にすれば、宝くじに当たるようなものだ。

 2019年に京畿道加平郡で起きた渓谷殺人事件のイ・ウンヘ容疑者も保険金に注目した可能性が高い。しかし、保険会社による保険金給付拒否で計画が頓挫した。死亡保険金の給付拒否に怒ったイ容疑者は金融監督院に陳情を行った。それが認められず、テレビ番組に「保険会社の横暴」だとして告発したところ、殺人容疑者として浮上した。

 保険は善意に基づき、多数の資金を出し合って助け合い、苦痛を分かち合う制度だ。しかし、悪用には弱い。道徳の欠如を意味する「モラルハザード」も保険用語が由来だ。韓国は経済協力開発機構(OECD)加盟国で詐欺犯罪が世界最も多い。保険にも数多くの犯罪事例がある。1975年に姉、姉の夫ら親族や知人など5人を毒入り牛乳で殺害した「パク・ブンレ事件」は保険金を狙った最初の殺人事件だった。2000年代初めに夫2人、母親、兄を失明させ殺害に及び、保険金5億8800万ウォン(約6100万円)を受け取った「元保険プランナー・オム氏事件」は過去最悪の保険犯罪に数えられる。

 保険会社がいい加減な商品設計でモラルハザードを招いたこともあった。1990年代末、サムスン生命は女性向けの尿失禁保険を発売したが、2兆ウォン以上の損失を出した。中年女性の間で「カネも稼げ、夫にも愛される一石二鳥の保険だ」とのうわさが出て、200万人が加入し、保険対象となる女性器整形手術を受けた。最近は2700万人が加入した実損保険が保険会社の悩みだ。保険料を毎年13%引き上げても保険金給付額が増え、10年間で100兆ウォンを超える赤字を抱えなければならない状況だ。

 就職難のせいか、20代の青年による保険犯罪が増えている。昨年摘発された保険金詐欺犯の5人に1人が20代だった。1年間で33%急増した。10%台という低い摘発率が保険金詐欺の誘因になっているというが、最近は頼りになる盾が登場している。これまで元警察官数百人が担当してきたことを人工知能(AI)が引き受けた。事故履歴を数千万件学習したAIが保険金請求者の社会における人脈を分析し、詐欺容疑者を探し出すのだ。こうしたシステムが早期に開発されていれば、イ・ウンヘ事件の悲劇を防ぐことができたかもしれない。

キム・ホンス論説委員

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