【コラム】「積弊」のレッテルを貼られた韓米同盟の象徴

 米国の首都ワシントンの国立公園「ナショナルモール」は、毎年およそ400万人が訪れる。この公園の中心部に、6・25戦争の戦死者の名を刻んだおよそ10枚の花こう岩の板を壁のように立てた「追悼の壁」が完成した。高さ1メートル、1周50メートルの花こう岩の板に、血を流して戦死した韓米両軍4万3808人の名前が残らず刻まれた。

 追悼の壁は、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に建設が始まった。このため、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権でも追悼の壁を「前政権の成果」くらいに見なす人が少なくないという。しかし文政権が当初、この事業を「積弊事業」だとして座礁させようとしたことを知っている人は多くないらしい。7月27日に開かれる追悼の壁除幕式には、米国のジョー・バイデン大統領自ら出席する。尹大統領が米国を訪れるという声は聞かれなかった。

 追悼の壁は当初、ウィリアム・ウィーバー米予備役陸軍大佐が推進していた。6・25戦争で右腕と右足を失ったウィーバー大佐は「米国社会に6・25戦争のことを知らせなければならない」として事業に専念した。2016年に建設許可法が米国議会を通過した。朴槿恵(パク・クンへ)政権時の2017年、韓国政府も事業予算50億ウォン(現在のレートで約5億3000万円)を策定した。

 文政権が発足して、危機が訪れた。与党「共に民主党」のある議員は、事業を取り消すべきだと迫った。報勲処は警察から人員の派遣まで受けて独自の監査を始めた。最終的に、大きな問題は見つからず、結果は「注意」措置にとどまった。前政権の事業に「積弊」のレッテルを張り、無期限中断させれば十分だった。

 ところが、大統領の一言で状況が変わった。文大統領は2019年、顕忠日の記念演説で「2022年までに追悼の壁建設を終えたい」と発言した。積弊だとして放り出していたのに、政府の予算を100%投入することとして事業を急いだ。何が文政権の考えを変えさせたのだろうか。消息筋は「『ハノイ・ノーディール(米朝首脳会談決裂)』以降、米国が再び動くように説得することが急務だった」と語る。「北朝鮮との対話再開」を説得するための、韓米関係改善用だったのだ。

 過去にもこうしたことはあった。米国バージニア州の「長津湖の戦い記念碑」建設事業のため、2014年に朴槿恵政権が予算を組んだ。しかし民主党(当時は新政治民主連合)が予算編成に強く反対し、事業は座礁直前だった。3年後の2017年6月、文大統領は初の韓米首脳会談の際、最初の日程として「長津湖の戦い記念碑」を訪れた。青瓦台(韓国大統領府)は「“血盟”の強調で今回の会談をスタートさせたいということ」とPRした。保守政権の事業には無条件で反対し、自分たちが必要なときには大々的に宣伝した。

 6・25戦死者を追悼する記念碑が、対北対話のために利用されたとは皮肉だ。命を捨てて北朝鮮・中国軍の侵略を防いだ護国英霊に対する冒とくだ。同盟の象徴が政治的理由で振り回されることは、これ以上あってはならない。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

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  • ▲米国ワシントンの韓国戦争参戦記念公園にある「追悼の壁」が、完工を控えている。およそ10枚の花こう岩の板に、6・25戦争で命を落とした米軍将兵3万6634人と韓国軍のKATUSA(在韓米軍管轄下の韓国軍兵士)7174人、合計4万3808人の名前が刻まれている。/写真=イ・ミンソク特派員

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