障害者虐待事件の捜査まで阻む「検察捜査権完全剥奪」

 韓国検察当局が最近、国家人権委員会から障害者に対する虐待・搾取事件に関する告発を受けたが、直接捜査を行うことができず、警察に移管せざるを得ない状況であることが分かった。国家人権委法は同委が犯罪を摘発した場合、検察に告発をすると定められているが、前政権が検察・警察の捜査権見直しや検察捜査権完全剥奪によって、障害者被害犯罪が検察の捜査対象から除外され、法的な矛盾が生じている。

 本紙の取材を総合すると、人権委は今月9日、地方の障害者居住施設の職員を障害者福祉法、障害者差別禁止法などに違反した疑いで大検察庁に告発した。容疑者は2020年から21年にかけ、用便がうまくできないことを理由に障害者6人を虐待したほか、労働や献金を強要したとされる。人権委が同事件を警察ではなく検察に告発したのは、人権委法45条に基づく措置だ。人権委が調査過程で犯罪行為をつかんだ場合、検察総長に告発できるとの規定だ。検察総長は人権委の告発を受けた場合、3カ月以内に捜査を終えなければならない。 判事出身の弁護士は「人権委が警察を経ず、直ちに検察に告発できるようにしたのは、速やかに人権を保護する狙いがあるからだ」と指摘した。

 しかし、文在寅(ムン・ジェイン)政権が昨年初め、検察と警察の捜査権見直しによって、検察の捜査対象を6大犯罪に制限し、障害者被害犯罪は検察による捜査ができなくなった。障害者被害犯罪はすべて警察が捜査し、検察は捜査指揮もできなくなった。文在寅政権は今年4-5月、検察捜査権完全剥奪を強行した際、障害者被害犯罪を検察の捜査対象に含めなかった。警察が嫌疑なしとして処理しても、人権委は再捜査を要求する異議申し立てもできない。検察関係者は「人権委法に検察告発規定を設けた趣旨を無視し、捜査の空白と人権保護の遅延が懸念される状況をつくった」と話した。

 法務部が12日に立法予告した検察庁法施行令改正案には、人権委法、5・18真相究明法、国会証言・鑑定法など個別の法律で検察に告発するとの定めがある事件については、検察が直接捜査できるとする条項が含まれた。同施行令は原案通り確定すれば、9月10日から適用される。ただ、人権委が今月9日に大検察庁に告発した障害者虐待・搾取事件は施行令改正前に受理された事件であり、検察は捜査を行えず、警察に送致するほかない。法務部関係者は「障害者など社会的弱者を保護するのに必要な法律と制度を引き続き整えていく」と語った。

キム・ジョンファン記者

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