【コラム】金命洙大法院長5年、うそだけが残った

 韓国では9月26日で金明洙(キム・ミョンス)大法院長が就任して満5年を迎える。任期6年のうち5年が過ぎ、成績表を付ける時期を迎えた。金院長が司法府のために何をやったのか、寡聞にして知らない。思い出されるのはうそだけだ。それでももしかして知らないことがあるかもしれないと思い、就任あいさつを読んでみたところ、それも結果的に大半がうそになった。

 金院長は就任演説で「裁判官の独立を侵害しようとするいかなる試みも全身で防ぐ」と話した。その後の行動は正反対だった。前政権下で裁判官弾劾を推進する与党に配慮し、与党が弾劾対象に名指しした後輩判事の辞表受理を拒否した。政権の顔色をうかがうために司法府の独立を自ら踏みにじったのだ。そうしておいて、昨年2月には大法院の名義でそんなことはしていないという偽りの答弁書まで出した。

 法廷で言ったうそを偽証として断罪する判事は、そんなうそが明らかになれば、地位を守ることは難しい。ところが、大法院長が国民に前代未聞の偽証を行い、今もそのポストにいる。ジョンソン英首相は先月、痴漢行為をした前歴を知りながら、側近を保守党の要職に就かせ、マスコミに知らなかったとうそをついたが、結局近く辞任する意向を表明した。真実を最も重要な価値と考えるべき司法トップのうそが、首相のうそより軽いとは言えない。それでも持ちこたえているのは、彼が厚かましいか、韓国社会が寛大かのどちらかだろう。

 金院長は「良い裁判の実現を最優先の価値とする」と発言している。しかし、金院長が会長を務めたウリ法研究会、国際人権法研究会、そして、民主社会のための弁護士会(民弁)が掌握した大法院は「選挙のテレビ討論で言ったうそは虚偽事実の公表には当たらない」という納得し難い判決で、李在明(イ・ジェミョン)氏が京畿道知事職にとどまることを許した。不法政治資金を受け取った殷秀美(ウン・スミ)城南市長の事件で、検察による訴状の記載が不適正だったという枝葉的な理由を挙げ、事実上免罪符を与えたのも大法院だ。「蔚山市長選介入事件」の一審を担当したウリ法研究会出身判事は1年3カ月間にわたり、審理を進めなかった。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領を批判する壁新聞を大学の建物に張り、建造物侵入という荒唐無稽な罪で起訴された青年に対し、一審は有罪を言い渡した。これらを「良い裁判」とは言えない。ある判事は「あまりにも情けなくて、顔を上げられない」と話した。

 金院長の在任5年間、全国の裁判所では2年以内に一審判決が下されなかった長期未済事件が民事訴訟で3倍、刑事訴訟で2倍に増えた。金院長が高裁部長判事昇進制を廃止し、裁判所長候補推薦制を導入した結果、判事が熱心に働く動機がなくなったからだ。昇進概念をなくし、裁判所長も人気投票で選ぶ状況で、どの判事が熱心に働くだろうか。判事の「ライフワークバランス」は改善しただろうが、裁判遅延で国民の苦痛は増した。迅速な裁判と公正な裁判は憲法が規定する手続的正義の柱だ。「良い裁判」のための必須条件だが、金命洙司法府ではいずれも崩壊した。

 金院長は自身の院長就任は「それ自体が司法府の変化と改革を象徴するもの」と語っている。しかし、自身と理念的方向性が同じウリ法研究会、国際人権法研究会出身の判事を要職に就かせ、権力不正裁判で政権側に不利な判決を下した判事を閑職に送った。プライベートな席では後輩判事に「お前は誰の味方なのか」と言い、露骨に敵味方に分けることもあった。側近の判事は法服を脱ぐとすぐに青瓦台秘書官になり、実体も不明な前司法府による「司法権力乱用」を告発したという判事は前与党の公認を受けて国会議員になった。これは改革ではなく後退だ。大韓民国の司法史に大きな汚点を残した金院長が退任あいさつでこうした部分をどんな言葉でごまかすのか気になる。

イ・ウンヨン記者

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  • ▲金命洙大法院長が7月21日午後、大法院で開かれた大法廷での判決公判で着席している。/聯合ニュース

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