【コラム】「手続き通りに」トランプ前大統領捜査

 米国で過去に例のない前大統領の自宅に対する家宅捜索から2週間が過ぎた今、ワシントンの雰囲気は微妙だ。米民主党とその支持者の当惑する様子が目に見えて分かるからだ。彼らはつい先日まで「トランプを起訴せよ」と捜査当局に強く要求していたが、今は捜査に対する「慎重論」を語り始めているのだ。これに対してトランプ前大統領と距離を取ってきた共和党や保守系メディアは一斉にトランプ氏の擁護に回り結集し始めている。つい先日まで「CHIPSプラス法」や「インフレ削減法」など重要法案の成立で意気揚々としていたバイデン大統領とホワイトハウスはその「政策の成果」を失わないか徐々に焦り始めているようだ。

 これは家宅捜索後に起こった一連の状況が政権与党の思惑と違った方向に進み、トランプ支持者らの反発が予想以上に激しくなっているためだ。最近の世論調査では共和党員の75%が今回の家宅捜索を「政治的」と考えているという。トランプ氏は家宅捜索直後から支持者に募金を求めるメールを送ったが、わずか2日で100万ドル(約1億4000万円)をかき集めたという。

 もっと大きな問題は今回の家宅捜索について共和党員だけでなく回答者全体でも48%が「政治的」と判断していることだ。かつて見たことのない大統領経験者に対する家宅捜索を一般大衆が全く支持していないのだ。他の世論調査でも同様で、家宅捜索後もトランプ氏に対する支持率は大きな変動がない。昨年1月6日の議会乱入事件直後にトランプ氏の支持率は共和党員や無党派層に関係なくいずれも4-5ポイント下落したが、今回はそれとの違いが際立っている。

 ワシントンの政界では今後のシナリオとして大きく三つが考えられている。「トランプ氏の起訴」「次の大統領選挙への不出馬を条件とするバイデン大統領によるトランプ氏の赦免」「中間選挙後までの司法判断の先送り」だ。この中では赦免が最近民主党内で有力視されているが、これは米国の世論全体の流れが変わらない中、前例のない「大統領経験者の起訴」が自分たちへの逆風となる可能性が高いと判断したためだ。ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズなど民主党支持の主要メディアが最近コラムなどで「赦免は政治的リスクが小さい」「トランプの『ロシア内通疑惑』立証に失敗したミュラー特別検察官のケースを繰り返してはならない」などと主張するのもそのためだ。

 ある民主党関係者は先日記者に「党や行政府は今回の捜査に大きな影響を行使できない」と語った。捜査を指揮するメリック・ガーランド司法長官が「外圧に動じない」と予想しているからだ。ガーランド長官はトランプ氏に対する捜査が進まないことに対する民主党内からの批判について、側近らに「手続き通りやれ」としか語らないという。議会乱入事件から1年が過ぎた時の演説では「犯罪に対する捜査で味方の軍と敵の間にルールの違いはない」と述べ、民主党内からの批判にメディアの前で反論した。韓国では捜査機関が大統領と与党の「注文」通り捜査を開始し、後からこれをストップしたが、米国では事情が異なるようだ。今後いかなる結果が出るかホワイトハウスはもちろん民主党も神経をとがらせている。

ワシントン=イ・ミンソク特派員

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