「母がいなくなりました」…韓国の認知症高齢者、今年8200人に捜索願

捜索願、毎年増加…家族が頼るのは「失踪警報SMS」だけ

「母がいなくなりました」…韓国の認知症高齢者、今年8200人に捜索願

 蔚山市内で母親と同居しているカンさん(51)は昨年12月、真夜中に母親がいなくなっていることに気づき、驚いた。認知症3級と診断されている79歳の母親は、日が暮れると強い不安に襲われ、家の外に出ようとする「夕暮れ症候群」という症状に見舞われる。認知症3級とは、家族との会話はできるが、ときどき顔が分からなくなったり、他人と勘違いしたりする程度の認知症を言う。幸い、近隣の人々の通報で母親は3時間後に発見されたが、カンさんはそれ以降、常に不安を抱えている。

 カンさんの母親のように全国で認知症を患う60歳以上の患者は、5年前の2017年の72万人から今年3月時点では91万人に増えている。認知症患者の失踪(しっそう)事件も急増中だ。外に出て道が分からなくなったり、徘徊(はいかい)したりするのは認知症の代表的な症状の一つだ。高齢化が進むにつれて、行方不明になった高齢者を探そうと奔走する家族もさらに増える見通しだ。しかし、認知症による高齢者の失踪問題を解決するこれといった対策はないとの指摘もある。

 警察庁が2日に明らかにしたところによると、失踪した認知症患者を探してほしいという捜索願は2012年の1年間で7650件だったが、2019年は1万2479件まで増えたという。新型コロナウイルス流行の影響で2020年から21年にかけては増加傾向がしばらく止まったが、今年は1月から7月までで8444件の捜索願があった。このうち97%に当たる8200件が60歳以上の高齢者だ。

 慶尚北道金泉市内で暮らすチョさん(56)は12年前に認知症と診断された母親(88)の世話をしている。物を投げたり、ののしり言葉をたびたび口にしたりして、他人に世話をしてもらうのはますます難しくなっている。特に、母親が「風に当たってくる」とよく言うのが心配だ。チョさんは「家の近くに山道があるから危ないし、家族が24時間見張っているわけにもいかず、ふらふらと1人で出ていってしまうのではと大変心配している」と語った。

【グラフ】韓国で増加する認知症患者の捜索願

 現在、失踪した認知症高齢者を見つける方法は、警察に捜索願を出すくらいしかない。顔かたちや着ていた服をもとに、警察と家族があちこち捜し歩くのだ。警察はこの時、緊急の状況だと判断すれば、昨年6月に導入した「失踪警報ショートメッセージサービス(SMS)」も利用する。特定地域の住民の携帯電話に、行方不明になった高齢者の顔立ちや着ていた服などを書いて発信するものだ。だが、捜索願の数が多すぎるのが問題だ。今年1月から7月までで、認知症患者をはじめ18歳未満の児童、知的障害者・自閉症の人の失踪事件は3万件近いが、失踪警報SMSを利用したのは1000件余りにとどまっている。東国大学警察行政学科のイ・ユンホ名誉教授は「失踪警報SMSを頻繁に送信すると疲労度が高まり、苦情が多量に発生する可能性があるため、絶対に必要な場合しか送信できないという限界がある」と説明した。

 これといった方法がないため、認知症患者の家族は位置追跡機能のある「衛星利用測位システム(GPS)ブレスレット」を高齢者に付けたり、家に「認知症患者対策用ドアロック」を設置するなどの自衛策を取ったりすることもある。認知症患者対策用ドアロックとは、家の外に出るには別途にカードキーをロック装置に当てなければドアが開かないというものだ。ソウル市銅雀区に住むパク・チェアさん(38)も認知症の父パク・ジンスさん(77)が昨年6月に街を徘徊し、3時間後に近隣住民の通報で家に戻ってくるということがあった。その後、GPSブレスレットを買ったものの、ジンスさんが嫌がって切ってしまったため、家のドアに約20万ウォン(約2万円)かけて認知症患者対策用ドアロックを設置したとのことだ。

 専門家らは「認知症の高齢者認識票の装着や指紋事前登録などを政府はいっそう積極的に誘導すべきだと」と助言する。認識票は各区で運営する認知症安心センターに申請すれば無料で受け取ることができる。認知症患者の服の内側にアイロンで貼り付けるというもので、認識票に書いてある固有の番号で行方不明の人を見つけることができる。指紋事前登録も同センターで行うことができる。警察庁によると、今年7月時点で認知症高齢者指紋事前登録は約21万人が済ませたとのことだ。これは全認知症患者の23%程度となっている。

シン・ジイン記者

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