国防部と海洋警察はこの指示にそのまま従った。しかし監査院が調べたところ、政府が発表したイさん越北の根拠は全てうそだった。まず殺害されたイさんが着用していたライフジャケットには漢字が書かれてあった。韓国国内で流通するライフジャケットに漢字が書かれたものはなく、この事実は当時の海洋警察も把握していたが、イさん着用のライフジャケットに漢字が記載されていた事実を発表の際に伝えなかった。当時の海洋警察庁長はこの点について報告を受けたが「(報告書を)見なかったことにする」と語ったというのだ。イさんが乗っていた船のライフジャケットは最初の数が全て残っていた。
監査院によると、海洋警察の捜査チームは「自らの意志で越北したとは断定できない」として反対したにもかかわらず、海洋警察庁長は「他の可能性は全く考えられない」「越北が正しい」として押し切ったという。海洋警察は船舶に残されたスリッパもイさんのものという証拠がないにもかかわらず、イさん所有と発表した。監査院は「海洋警察は越北の動機としてイさんがワタリガニを買う代金を賭博で使い込んだためとしているが、これも確認できていない私生活の領域だった」と指摘した。
海洋警察はイさんが自らの意志で越北した根拠をでっち上げるため、実験結果まで捏造したという。海洋警察は国立海洋調査院などに「イさん漂流経路の予測分析」を依頼したが、「イさんは自然に漂流して北朝鮮の海域に流れ着いた可能性がある」との結果が出ると、この分析結果を除外するよう圧力をかけたという。またイさんが失踪した地点とは潮流などの環境が全く異なる仁川内港で人間が1キロ泳いだ実験結果を根拠に「失踪した周辺海域から17時間かけてゆっくり泳げば(北朝鮮の海域までの)33キロ進むことができる」とする結論をでっち上げたことも分かった。
さらに監査院は国防部が北朝鮮から同年9月25日「遺体ではなく(イさんが乗っていた)浮遊物を焼却した」という内容の通知文を受け取った後、政府の対応が「遺体焼却確認」から「遺体焼却推定」へと変更されたことも明らかにした。文前大統領もその後27日の関係閣僚会議で「国防部の遺体焼却(確認)発表はあまりに断定的だった」としてこれを改めて確認するよう指示したという。
チョ・ベッコン記者