【コラム】カカオの大規模障害で思い出した中国IT開発者の一言

 未曾有の接続障害で韓国国民を怒らせはしたが、カカオとしては、この程度で問題が済んだのは幸いだったといえると思う。カカオが今回の件を経験することなく今のような軌跡をたどって第4次産業革命時代を迎えたと思うと、めまいがする。未来のカカオデータセンターが問題を起こしたら、ソウルの空を飛ぶUAM(都心航空モビリティー)が墜落し、高速道路を疾走する自動走行車が次々と衝突する惨事を起こしていたかもしれない。今回の問題でカカオの株価が暴落し、最高経営責任者(CEO)が就任わずか7カ月で辞任し、この先も損害賠償まですることになるだろうが、まともなデータセンターを作るのは、その気になりさえすれば難しいことではない。

 問題は、今回の事態の根幹といえるカカオの文化、別の言い方をすると今のカカオを生んだ成長方式が、果たしてこのままで大丈夫かということだ。カカオはユーザー5000万人という巨大な領土の上に成立した王国だ。その基盤の上で、スター開発者らが金融・決済・交通などへとサービス領域を拡大し、そうしたサービスを分社化・成長させ、成功の主役に巨額のストックオプションを提供する形で成長してきた。カカオペイのリュ・ヨンジュン元代表も、そうしたシステムが生んだスターだった。ストックオプションの時間外売買で「食い逃げ」論争を引き起こし、最後には不名誉な退陣をしたが、彼はたった数名の開発者を連れて、事実上独力でカカオペイを成功させ、460億ウォン(現在のレートで約47億6000万円。以下同じ)を稼いだ。カカオのこうした拡張法は、王族・功臣を各地に分封した中国の周王朝を連想させる。カカオが諸財閥を追い抜いて数百億(100億ウォン=約10億3000万円)、数十億(10億ウォン=約1億円)を手にする年俸キングを量産する会社になったのも、こうしたやり方のおかげだ。

 数多くのITベンチャー企業が集まる板橋(城南市盆唐区)でも、カカオが唯一「体系がない」「てんでんばらばら」と評されてきたのも、こうした成長法に起因する。カカオそのものが、機能面において日常の全ての領域をカバーする「万能アプリ(everything app)」へと進化したが、諸侯国が増えることで求心力が弱まった周王朝のように、カカオも系列企業がめいめい声を上げ、それぞれに躍進してきた。基本中の基本から外れる「データセンター二元化」の失敗も、確実な求心力なきカカオ式リーダーシップの必然的な結果-とみることができる。

 カカオが歩んできたモバイル革新の道を全面的に否定するわけではない。だが、年俸キングのスター開発者を含むカカオの全構成員が忘れてはならないことが一つある。カカオの成功には、韓国社会も寄与してきたという点だ。厳しい経済危機のたびにIT分野で新たな成長のチャンスを探し、果敢な投資を惜しまなかった歴代政権、「産業化は遅れたが情報化では先頭に立とう」と官・民が一緒に構築した巨大な超高速有線・無線インターネット網、そして何より、会社を信頼して自らの身元・動線・利用情報を託した韓国国民がカカオの成長の養分だった。カカオトークは無料サービスだが、韓国国民も自分の情報をカネをもらって提供したわけではない。おかげでカカオは、さまざまなサービスを作ることができただろう。その代わり、カカオはより安く、安定的で、革新的なサービスを提供しなければならないが、最近になってしばしばその期待を裏切っている。

 数年前、中国版カカオトークといえる「ウィーチャット(WeChat)」の中国・広州本社を訪れたことがある。ウィーチャットは、カカオよりはるかに早くから決済・送金・金融・タクシー呼び出し・飲食配達、果ては音声伝送サービスまで提供し、ユーザーは実に10億人を超える。トラフィックは想像を絶するが、中国でウィーチャットが深刻な障害を起こしたのを見たことはなく、最近までそういうニュースに接したこともない。「その巨大なトラフィックをどのように管理するのか」と尋ねたとき、開発者が言ったことが今も忘れられない。「別に秘訣(ひけつ)はない。ただ、『僕らが一番自信あるのは徹夜』と言いたい」 その瞬間、「ここは本当に共産党の国なのか」という思いと共に、めまいを感じた。カカオは変わるべきだ。

李吉星(イ・ギルソン)記者

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  • ▲カカオ共同代表の南宮熏(ナムグン・フン)氏と洪銀沢(ホン・ウンテク)氏が10月19日、京畿道城南市板橋のカカオアジトで、「大規模接続障害」問題に関連して韓国国民向けの謝罪記者会見を開き、頭を下げている。/写真=チャン・リョンソン記者

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