【コラム】日本海軍は敵将・李舜臣に向けて祈りをささげた

韓国の海は東海にとどまらず北極航路へ…海洋安全保障の生命線はインド洋まで拡張
国の運命を左右する海に向けた敬礼を見て思い浮かぶ意味が、せいぜい旭日旗だけなのか

 米国の海軍理論家、アルフレッド・T・マハンのシーパワー(Sea Power. 海洋権・海洋権力)論が19世紀末に世界を強打した。マハンの理論は「海を制する者が世界を制する」という言葉に要約される。これを受けて国家戦略を変え、帝国へと成長した国が米国だ。日本にも大きな影響を与えた。露日戦争を勝利に導いた秋山真之(さねゆき)は、マハンに師事した海軍参謀だ。日本は海の戦略的価値に目を留めた。陸軍中心の武力を海軍中心に変えて列強へと跳躍するため、マハンの理論を日本の戦争史に適用した。ところが当時、日本に海軍の英雄はいなかった。そこで敵将・李舜臣を引っ張り出し、反面教師のような形でシーパワーの価値を主張したのだ。司馬遼太郎は、日本がシーパワー論を内在化する過程について「黒砂糖を白砂糖にする精製作業」と書いた。李舜臣の叙事は“漂白剤”の役割を果たしたのだ。

 日本を知れば、韓国のミステリーも解ける。当時、韓国は海を知らず、知ろうともしなかった。中国中心の狭い世界観に閉じ込められ、自国の近海すら守れなかった。陸軍の英雄は満ちあふれていても、海軍の英雄を有する国はごく少数だ。海の近代的価値が分からなかったから、李舜臣の近代的価値も分からなかった。だから抗日英雄の救国叙事すら日本に奪われた。狭い世界観がつくり出した悲劇だ。

 韓米日が東海で合同訓練を行うと、韓国野党の代表は「親日国防」と攻撃した。「独島沖旭日旗訓練」と描写した。韓国などインド・太平洋12カ国が参加した日本主催の国際観艦式のときも、韓国政界の論争は「旭日旗」だった。韓国海軍が主催国首脳に向けて敬礼する、その方向に、旭日旗と同じデザインの海上自衛隊旗があった。ある野党議員は、国会で旭日旗の模型を壊すという幼児的パフォーマンスまで行った。韓国経済の航路は、東海を越えて北極航路を突破し、欧州へとつながっている。海洋安全保障の生命線はインド洋まで拡張された。韓国が日本近海を通ることなしに太平洋へ出ていくことは困難だ。あの日の敬礼は、国家の運命が懸かった広い海に向けてのものだ。なのに野党の目には、ほとんど旭日旗の模様しか見えていなかったのか。

 日本海軍は決戦を前に、過去の敵将・李舜臣の魂に向けて祈りをささげた。東洋人の側に立って西洋の帝国たるロシアに勝たせてほしい、という祈りだったという。胸の痛む歴史だが、勝利する者の行動とは、かくも違うものなのだ。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員

【写真】旭日旗を掲揚して仁川港に入港した海上自衛隊練習艦かしま(2007年9月)

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