【朝鮮日報コラム】ハーバード大の卒業証書より軍歴を優先する国

「空軍将校として8年間、アパッチ・ヘリを操縦しました」

 10月のイスラエル出張で会った、4兆ウォン(現在のレートで約4100億円。以下同じ)規模のベンチャーファンド「Vintage」のアサフ・ホレシュ代表(Asaf Horesh General Partner)は、自己紹介するに当たってまず軍歴から切り出した。ホレシュ氏は「軍で学んだ技術知識が投資対象企業の理解に役立った」とし「イスラエル軍特有の、異なる意見を認める脱権威文化(フツパー)は、投資決定会議でも全く同じように適用される」と語った。

 イスラエルで軍は、企業・学校・政府と共に「スタートアップ・ネーション(創業国家)」をつくっていく主体だ。ハーバード、スタンフォードなどグローバル名門大学の卒業証書より軍歴の方が企業で高く評価される独特の文化が根付いている。ホレシュ代表も米国の名門、ウォートン・スクール(ペンシルベニア大学ウォートン校)で経営学修士(MBA)を取ったことを後になって明かした。

 資源に乏しく、人口940万人で内需市場が小さいイスラエルは、国防技術を商用化してグローバル市場のドアをノックしている。F16戦闘機用先端ヘルメットでシェア90%を誇るエルビット・システムズは最近、この技術を適用して世界最軽量のオートバイ・自転車用スマートゴーグルを開発した。ミサイル弾頭の光学技術を錠剤に取り付けたカプセル内視鏡(pillcam)を開発したギブン・イメージングは、2001年にナスダックに上場した後、14年に世界的な製薬会社コビディエンに8億6000万ドル(約1190億円)で買収された。テロリストの金融取引を追跡する技術を用いてオンライン決済詐欺摘発システムを開発したフラウドサイエンシズは、世界最大の簡易決済企業ペイパルが08年に1億6900万ドル(約235億円)で買った。イスラエルの対外情報機関「モサド」で25年間勤務した後に退職し、15年にサイバーセキュリティー企業を設立したノアム・エレツ氏は「中東諸国と海に囲まれ、地政学的には島と同然の逆境に置かれたが、これをチャンスに変えようと努力した結果だ」と語った。

 1948年の建国後に採択した社会主義体制の非効率性に周辺諸国との戦争まで重なり、イスラエル経済は1970年から80年にかけて「失われた10年」を経験した、84年には物価が400%近く上昇したこともあった。

 だがその後、市場経済へと転換し、90年からは果敢にスタートアップ企業(ベンチャー企業)の育成に乗り出した。この過程で、エリート軍部隊を積極活用した。イスラエル国民は高校卒業後、男性は2年8カ月、女性は2年の兵役に就かなければならない。イスラエル軍のタルピオット(Talpiot)部隊は、年間50人を選抜してイスラエル最高の名門ヘブライ大学で数学・物理学などを3年間学ばせ、さらに軍で6年間、革新兵器を研究させる。有名なミサイル防衛システム「アイアンドーム」は、タルピオット出身者が開発した。コンピューターおよびセキュリティー技術に特化した8200情報部隊出身者が設立したスタートアップ企業は1000を超える。

 その結果、人口1500人当たりスタートアップ企業1社で、世界第1位となっている。群小のスタートアップが「フォーチュン」誌の500大企業の20-30%を顧客として抱えるケースがざらにある。グーグル・インテル・マイクロソフト・アップルなどグローバル大企業のR&D(研究開発)センターおよそ450カ所が入っている。国民1人当たりのGDP(国内総生産)は1990年の1万3000ドル(約181万円)から、昨年は5万2000ドル(約722万円)と4倍に跳ね上がった。2015年には日本を、昨年にはドイツを抜いた。

 韓国はどうか。韓国人は大抵、軍服務を「青年たちの人生を空費する時間」「泥スプーン(低所得世帯出身者)の役目」などと見なしている。これ以上資源を浪費する余裕はない。昨年末に経済協力開発機構(OECD)は、現在2%台前半の韓国の潜在成長率が2044年には0%台に低下し、加盟38カ国の中で最低になるだろうと見込んだ。用い得る資源を総動員しても成長が難しくなることを意味する。軍隊まで活用して創業経済を主導するイスラエルを、いつまで羨望の目で眺めるだけでいるのだろうか。

崔炯碩(チェ・ヒョンソク)記者

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
あわせて読みたい