【萬物相】「ウイスキー・ラン」

 日本の小説家、村上春樹はスコットランドのウイスキー醸造所を訪問した後、紀行文『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』という本を書いた。「一口飲むと『これは一体何だろう』、2口目には『なかなかじゃん』となり、3口目にはシングルモルトのファンになってしまう」と書いた。シングルモルトとは、同一の蒸留所で100%麦で作られた、個性のはっきりしたウイスキーのことをいう。韓国の小説家のウン・ヒギョンも『中国式ルーレット』で「ウイスキーが魂なら、シングルモルトこそ最も精製された形態」と絶賛した。

 先日、ある韓国大手スーパーがスコットランド産のシングルモルト「バルベニー」を初めとする人気のウイスキー1万本を割引販売すると、開店前からウイスキー・ラン(whiskey-run、ウイスキーに殺到すること)が続き、あっという間に売り切れた。一味違った消費を好む20、30代の間で、シングルモルトがホットアイテムとして浮上した。コロナ禍で拡散した一人酒、ホーム酒のトレンドが火に油を注ぐ格好となった。ソウル市城東区聖水洞、竜山区漢南洞、竜山区竜理団通りなどの商圏には、ウイスキーバーがあふれている。

 現在ウイスキーの生産国は英国、アイルランド、米国、カナダ、日本の5カ国程度だ。日本がウイスキー強国になったのは、醸造所の息子として生まれ、24歳だった1918年、スコットランドにウイスキーのため留学した竹鶴政孝のおかげだ。ワイン輸入業者からサントリーを創業した鳥井信治郎が竹鶴と合作、決別、競争する過程で、日本のウイスキーのブランド、山崎や響が誕生した。

 ウイスキーは投資対象としても注目を集めている。ここ10年間、ウイスキーの収益率(428%)は自動車(164%)、ワイン(137%)、時計(108%)を圧倒している。ブロックチェーンを基盤とするNFT(代替不可トークン)技術が真偽証明書の機能を果たすようになったことで、ウイスキー投資の大衆化時代を迎えている。最近、英国のグレンフィディックは1973年産のウイスキー15本にNFT証明書を貼り付け、1本当たり1万8000ドル(約240万円)で販売した。ウイスキーを大量供給するための新技術も登場している。米国のあるベンチャー企業は、生産されたばかりの蒸留酒の原液と木片(oakchip)をステンレス缶に一緒に入れ、特定温度で圧力を加え、わずか5日間で21年物の高級ウイスキーと同じ味を出すという「超速ウイスキー」を作り出した。

 韓国の歴史では1882年、「漢城旬報」の輸入品関税を扱うニュースに「惟斯吉」という名前でウイスキーが初めて登場する。何でも早く追い付く韓国だが、まだこれといった国産ウイスキーは存在しない。ところが最近、韓国産シングルモルト作りに挑戦する事業家が一人、また一人と登場している。ウイスキー・ランがはやっているなら、韓国産がその恩恵にあずかってほしい。

金洪秀(キム・ホンス)論説委員

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