「ブラッディ・メアリー」と呼ばれた英国女王メアリー1世は、9歳のころ王位継承者になった。しかし父親のヘンリー8世は、後に弟が生まれるとそちらに王位を譲った。メアリーは弟が早世した後、貴族たちと王権を争った末、37歳でイングランド初の女王になった。最近亡くなったエリザベス2世女王は10歳のとき、突如として王位継承権第1位になった。エリザベス2世と遠縁のデンマーク女王マルグレーテ2世は13歳で王位継承者になり、32歳で即位して、これまで王座を守っている。
【写真】娘キム・ジュエさん同行させ祝賀行事出席した金正恩総書記
東洋では、若い女性が王位継承者になるケースは極めてまれだ。日本では、「女性天皇が必要」という声が強まったことを受け、2006年に女性天皇の即位が可能になるよう皇室典範を改正しようとした。だが皇室に男児が誕生すると計画を取りやめた。東洋であっても、王国ではなく共和国なら女性の権力者は少なくない。インドのネルー首相の娘インディラ・ガンジー首相、インドネシアのスカルノ大統領の娘メガワティ大統領、ミャンマーのアウンサン父娘、パキスタンのブット父娘、韓国の朴正煕(パク・チョンヒ)・朴槿恵(パク・クンへ)元大統領父娘などがいる。
共和国を名乗る北朝鮮は、実際には金氏王国だ。そうした中、金正恩(キム・ジョンウン)の10歳の娘キム・ジュエが後継者だという説がだしぬけに浮上した。ICBM(大陸間弾道ミサイル)の試射に同行し、深夜の軍事パレードにも登場して金正恩の横で軍を査閲した。呼称も「愛する」から「尊貴なる」を経て「尊敬する」にまで格上げされた。白頭の血筋だけが乗るというキム・ジュエの白馬が登場し、住民らには「ジュエ」という名前を使わせないという報道も出回った。
北朝鮮専門家らは、まだ40歳にもならない金正恩が今から後継者を公開する理由はないという。対内・対外的な危険に長期間さらす必要がないのだ。金正恩は25歳、金正日(キム・ジョンイル)は31歳で世間に姿を現した。だからキム・ジュエの登場は、制裁やコロナで深刻な経済危機に直面している北朝鮮内部を意識した「ショー」だという見方が多い。幼い少女を登場させて「核強国」の未来を見せ、外の文化に熱中する青年らの思想を取り締まろうとしているのだ。
一時、金与正(キム・ヨジョン)後継説もあったが、これもまた正確ではない可能性が高いという。金正恩には2010年生まれの長男、2013年生まれのジュエ、その下に性別未確認の第三子がいるが、婚外子はおらず、3人とも李雪主(リ・ソルジュ)夫人との間の子どもだという。北朝鮮のような極端に男性優越的な社会において、長男の「王位」継承の可能性が高いとみる専門家は多い。現在は海外留学中で、身元の露出に極度に気を付けているとの分析だ。誰が王位を継承するにせよ、10歳の子どもを心から「尊敬」せねばならない北朝鮮住民がひたすら気の毒だ。
黄大振(ファン・デジン)論説委員