尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は16日に就任後はじめて日本を訪問し、岸田文雄首相と85分にわたり会談した。韓国の大統領が国際会議ではなく日本の首相と会談するために日本を訪問するのは12年ぶりだ。尹大統領は「困難を極めた韓日関係が今日の会談で新たに出発するようになった」と述べ、岸田首相も「未来のため韓日関係に新たな場を開く機会が訪れた」との考えを示した。
今回日本政府はフォトレジストなど3種類の半導体素材に対する韓国向けの輸出規制を4年ぶりに解除した。韓国は輸出規制に対する対抗措置として行った世界貿易機関(WTO)への提訴を取り下げた。文在寅(ムン・ジェイン)前政権が破棄を宣言し、条件付き延長状態だったGSOMIA(軍事情報保護協定)の完全正常化も宣言された。これにより2018年の徴用判決に対する両国政府の対抗措置はほぼ解除されたため、表向きは「韓日関係が徴用問題以前に回復した」と評価できるだろう。
ただし徴用問題について日本側がより前向きな立場を示さなかったのは残念だ。岸田首相は共同記者会見で「1998年10月に発表された韓日共同宣言を含む、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体的に継承する」と述べた。韓国政府が徴用問題の解決策を発表した直後の発言そのままだ。1998年の共同宣言に明記された「反省と謝罪」という言葉には触れず、韓国の徴用被害者に対する慰労の表明もなかった。尹大統領の決断を受け日本に対応を求める韓国国民の期待に到底及ばないものだった。
しかし過去にのみこだわるわけにはいかない。未来に向けて前進しなければならない。両国政府は経済安保対話や次官級の戦略対話をはじめ、分野ごとに対話の窓口を新たに設けることで一致した。両国の未来に向けた協力関係を様々な分野に拡大するためだ。韓国の全経連と日本の経団連は被告企業を含む日本企業の参加が予想される「未来パートナーシップ基金」の創設を発表した。尹大統領は「韓国の国益は日本の国益とゼロサム関係ではない。ウィン・ウィンが可能な国益だ」と述べた。岸田首相は「今後も両国がしっかりと連携し、具体的な結果を一つずつ出していきたい」との考えを示した。
今回の訪日は米中の戦略競争やウクライナ侵攻で国際秩序の再編が急速に進む中で行われた。国連安保理が有名無実化し、中立国も再武装や軍備競争を始めている。これらに取り残されないためには自由・人権・法治など普遍的価値を共有する友好国と協力を進めて行かねばならない。今回両首脳は、形式にとらわれず相手国を相互訪問するシャトル外交の再開にも合意した。尹大統領の訪日は韓日関係正常化のスタートと評価できるだろう。両首脳が今後も会談を重ね、信頼が積み上がれば歴史問題など今回解消できなかった懸案も解決が可能になるはずだ。