それから20年の歳月が流れ、韓国社会は大きく変わった。知らない間に勢力を拡張した左派が韓国社会の各領域を掌握したのだ。いわゆる「君子山の約束」がそのきっかけだ。忠清北道槐山郡の君子山にある修練院に集まった左派たちは、暴力闘争ではなく、政党、教育界、労働界などに浸透するなど合法的な闘争を通じ、連邦統一祖国を建設することを決めた。彼らは国家保安法が天下の悪法だと主張し、これまで発覚したスパイ事件が全てねつ造であるかのように扇動した。彼らは言った。この世にスパイなんてどこにいるのか?
文在寅政権は彼らの努力が開花した時期だ。「スパイのない世の中」を証明しようとするかのように、前政権はスパイが横行しても捕まえなかった。2011年から17年までスパイ摘発件数は26件だったが、文在寅政権時代の17年から20年までの4年間に摘発されたスパイは3人にすぎず、それさえも朴槿恵(パク・クンヘ)政権下で疑惑が浮上し捜査していた事件だった。一方、大学生進歩連合(大進連)は北朝鮮の元駐英公使である太永浩(テ・ヨンホ)議員の「逮捕決死隊」を結成し、脅迫電話と電子メールなどで太議員の口を塞ごうとしたほか、ソウル光化門で「金正恩」を連呼し、「万歳」を叫んだ。
幽霊が怖いのは、実際に幽霊を見た人が珍しいからだ。幽霊が我々のそばにいつもいる存在で、我々のように食べて寝るなら、幽霊はもう怖い存在ではないだろう。スパイもさほど変わらない。スパイが自分の身分を隠す代わりに堂々と街を闊歩するなら、私たちはスパイを恐れるだろうか? その上、文化界を掌握した左派たちは、北朝鮮側の人物を素敵で人間的な姿に見せようと努めている。映画「コンフィデンシャル/共助」のユ・ヘジンとヒョンビン、「鋼鉄の雨」のクァク・ドウォンとチョン・ウソン、「義兄弟 SECRET REUNION」のソン・ガンホとカン・ドンウォンなどは2人のうち相対的にハンサムな俳優が北朝鮮側の役を演じているのではないか。
2023年の大韓民国ではもはや人々はスパイに驚かない。利敵団体がカンボジアで北朝鮮工作員と接触し、指令を受けて工作資金を受け取ったと報じられても、全国民主労働組合総連盟(民主労総)関係者の事務室で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の退陣運動を指示した北朝鮮の指令文が見つかっても、さらに、梨泰院雑踏事故を巡り、「退陣が追悼だ」というスローガンさえ北朝鮮の指令だったという事実が明らかになっても、世の中は平穏だ。民主労総をはじめとする左派団体はソウル都心で大規模集会を開き、尹錫悦政権を審判するという「政権発足と同時に北朝鮮に『敵』という烙印(らくいん)を押した」というのがその理由だ。民主労総が韓米合同演習中断と国家情報院解体を要求し、正義具現司祭団は露骨に尹大統領退陣を叫ぶが、人々は何事もないかのように日常を営む。さらに大きな問題は来年以降だ。2020年に民主党が国家情報院法を改正し、対共産捜査権を国家情報院から警察に移管したが、3年間の猶予期間が今年で終了するからだ。こんな事情だけに、普段信じもしなかった神の名を呼ぶことになる。「神よ、大韓民国を守りたまえ」--。
ソ・ミン檀国大寄生虫学科教授