火の手を大きくしたのは、野党の国会議員の質疑だった。事故翌日の7日、立憲民主党の玄葉光一郎衆院議員が浜田靖一防衛大臣に「事故発生前後に周辺海域を通過した中国軍艦と今回の事故との間に関連はあるか」という趣旨の質問をした。浜田防衛相は「そういう情報は今のところ全く聞いていない」と否定した。だがオンラインでは突如、「遠くで煙が立ち上るのを見た」という周辺漁船の証言と共に撃墜説が登場した。実際には煙はなかったという反論が出ると、今度は「機体の故障を引き起こす電波による攻撃説」が出てきた。
現在の状況では、攻撃説は科学的根拠のない話でしかない。ミサイル攻撃を受けたら非常に大きな爆発音と共に機体がばらばらになるが、行方不明現場では残骸を見つけることができていない。中国軍がミサイルを撃ったのならレーダーに捕捉されているはずだが、当時、飛行物体は何も確認されていない。事故現場周辺では、航空機はもちろんドローンなどの接近もなかった。
妨害電波攻撃も可能性はない。ヘリコプターをターゲットに電波を放射したとしても、その影響は周辺に広く伝わるからだ。周辺の管制塔のレーダーにもノイズが発生したり、通信が途絶したりといった異常現象が発生するはずだが、そういったことは全くなかった。自衛隊はもちろん民間の通信機器でも、通信異常は発生しなかった。
朝日新聞は「自衛隊の立場は、回転翼を回すギアの故障でヘリの推力が一気に落ちてしまい、そのまま海面にぶつかった可能性が高いというもの」と伝えた。機体の大部分がそのまま沈んでしまったせいで残骸がないというわけ。推定される原因は、機体の欠陥や老朽化、整備不良などだ。
自衛隊は、オンライン上で広がる陰謀論への直接対応は控える雰囲気だ。万一の場合、捜索がうまくいっていない中でネットユーザーと「真実ゲーム」の攻防戦になだれ込むという、最悪の状況になりかねないからだ。10日に自衛隊は、搭乗隊員が使っていたと推定されるヘルメットを公開した。伊良部島の海岸で前日に発見したもので、識別番号から、搭乗者の物と確認された。自衛隊としては、明確な原因把握ができなければ当分は陰謀論に悩まされる、苦しい状況に置かれている。
東京=成好哲(ソン・ホチョル)支局長