2020年2月15日、ソウル市永登浦区に住むイ・コンニムさん(35)は妊娠4カ月目で夫のユ・ジェグク警衛(警部補に相当)を亡くした。漢江警察隊所属の警察官だった夫は同日、加陽大橋から飛び降りた人を救うため水中に飛び込んだ。水温7℃、視界は30センチメートルしかないという悪条件。何度も潜水したが、行方不明者は見つからなかった。
肩に担いだ酸素ボンベがほとんど空になるころ、ユ・ジェグク警衛は「行方不明者の家族のことを考えて、もう一度捜してみよう」という言葉を残し、再び水の中に入った。そして冷たい遺体になって戻ってきた。その日、イ・コンニムさんは一晩中泣いた。
同年4月23日、息子のイヒョン君が生まれ、イ・コンニムさんはまた泣いた。出産予定日より4カ月も前の早産だった。息子は痙(けい)直型脳性まひで生まれた。子どもに理学療法や感覚統合治療などを受けさせるため、治療費だけで毎月200万ウォン(約20万円)以上かかるが、イ・コンニムさんは子どもの世話をするために仕事に就けずにいる。
本紙は今年初め、このようなイ・コンニムさん親子の状況を報じ、報勲家族(戦没・殉職した軍人・警察官の家族)に対する支援不足という問題点を指摘した。
現政権は「国のために命をささげた人々をもっと尊重しなければならない」として、戦没・殉職した軍人・警察官の子どもを支援するプログラムを作成した。今月14日、イ・コンニムさんの家を尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の妻・金建希(キム・ゴンヒ)夫人が訪れた。昨年の「警察の日」イベント会場で初めて会い、「子どもよりもつらい思いをしているコンニムさんをもっと抱きしめてあげたい」と言ってハグした金建希夫人。今回はイヒョン君を抱き上げた。
その後の支援プログラム発足式で、イ・コンニムさんは夫に書いた手紙を朗読した。
「寒い2月が過ぎ、きれいな花が咲く暖かい4月が来たように、私たちにも美しくまぶしい日々が来ると私は信じています。あなた、応援してね」
2月は夫がコンニムさんと子のもとを離れ、逝ってしまった月だ。
発足式の写真が掲載されると、各記事に数十から数百件のコメントが寄せられた。そのほとんどが「(アピールするための)ショーをしている」「へどが出る」など、金建希夫人に対する悪意あるコメントだった。大統領夫人に抱っこされたイヒョン君が顔をしかめているように見えるというコメントも多かった。「あたまがおかしいのか? 泣いている子どもの写真をなぜ載せるのか」「子どもが嫌がってもがいている」「子どもがびっくりしている」などだった。「イ・コンニムさん、うれしいんですか?」というコメントもあった。
イヒョン君の痙直型脳性まひによる症状は「脳がある行動をしようと信号を送ると、該当の筋肉がかえって固まる」というものだ。この障害のある人たちは、気分がいいと顔全体がゆがんでしまう。
記事には、イヒョン君の障害に関する説明が出ていたが、彼らはただ、大統領夫人をけなすためにコメントを付け、親子が傷付くことについては何も気にしていない。
イ・コンニムさんは電話でため息をつきながら次のように話した。
「私はこれよりもっとひどいことも数え切れないほど経験してきたので、あの程度の悪意あるコメントには平静でいられます。ですが、大統領夫人は…。この家に来なかったら、書き込まれることもなかった悪意あるコメントだったのに…。私たちのためにいらっしゃってくださったのに、申し訳ない気持ちです」
チェ・フンミン記者