【萬物相】北朝鮮とたばこ

【萬物相】北朝鮮とたばこ

 非喫煙者にとって、中国は地獄だ。マンションのエレベーターでたばこを吸うにとどまらず、ベビーカーに乗っている赤ちゃんに「かわいい」と言いながら紫煙をくゆらせる相手と険悪になった韓国人の母親たちの話は、今もママカフェ(母親たちのコミュニティーサイト)にアップされる。そんな中国の縮小版が北朝鮮だ。飲食店、商店、ホテルなど屋内での喫煙を当然視している。もともとはびこっている上に、たばこが身分の尺度として使われる。「建設」「7・27」といった高級たばこは党・政府・軍の幹部くらいにならないと吸えない。最高とされるのはロスマン、ダンヒルといった英国たばこだ。

【写真】金正恩総書記の娘キム・ジュエさん、マッチ箱を持って視察に同行

 金正恩(キム・ジョンウン)総書記は大のたばこ好きだ。病院、学校、幼稚園だけでなく各種の銃砲など引火性物質の天地である武器庫でも火の付いたたばこを持ったまま指示を下す。10代のころ、既にヘビースモーカーだった。金正日(キム・ジョンイル)総書記の専属料理人だった日本人は「2000年のある日、正恩が人差し指と中指を立てて口に当てるしぐさをして私に向かって『これやりに行こう』と言い、イブ・サンローランのたばこを分けて吸ったことがある」と語った。

 少し前に、たばこを持つ金正恩総書記の横で娘のキム・ジュエさんがマッチ箱を持っている写真が出回った。4年前、金正恩がハノイ行きの列車からちょっと降りてたばこを吸う際、妹の金与正(キム・ヨジョン)氏が灰皿を持って立っていた様子を連想させる。情報当局者は「たばこの吸い殻に付いている金正恩の生体情報の流出を防ぐのが目的」と語った。金正恩総書記の喫煙は、情報機関の関心事だ。たばこが識別されれば、タール、ニコチンの含有量が分かる。蓄積された情報資産を通して1日の喫煙量を推定する。他の情報と融合させれば、健康状態や残余寿命を予測できる。

 一時、偽の外国たばこは偽洋酒、偽札、麻薬、武器類と並び北朝鮮の主な外貨稼ぎ品目だった。人民軍傘下の会社など、政権レベルで大量に生産するので品質は問題なかった。価格は安く、世界の犯罪集団が競って手を出した。現地で販売処の役割を果たすのが北の海外公館だ。多いところでは毎年10億ドル(現在のレートで約1340億円。以下同じ)を稼いだ。これが核ミサイル開発や金正恩の統治資金として流れ込んだ。

 米司法省が、ダンヒルのたばこで有名なBATに対し、北朝鮮制裁違反の容疑で罰金6億2900万ドル(約842億円)を科したことを明らかにした。BATは子会社を通して2007年から17年にかけて、北朝鮮にたばこの材料4億2800万ドル(約573億円)分を販売し、北朝鮮軍所有のたばこ会社に7億ドル(約937億円)の利益をもたらしたという。北は「偽ダンヒル」などを作って海外に販売したと推定されている。犯行の時期が2017年までなのは、その年から全方位の北朝鮮制裁が本格稼働したからだろう。その後、北の金づるは暗号資産の奪取などサイバーハッキングになった。これを封じ込めれば、核の暴走を遅らせることができるだろう。

李竜洙(イ・ヨンス)論説委員

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