【記者手帳】原発閉鎖・住宅価格急騰・西海公務員殺害には一切触れないドキュメンタリー映画『文在寅です』

 文在寅(ムン・ジェイン)前大統領はドキュメンタリー映画「文在寅です」にひげを剃らずに半ズボン姿で登場する。「大統領はおじいさんですよね」というシン・ヘヒョン私邸秘書官が語るように、映画は普通の田舎のおじいさんの姿で、土を掘って畑を耕し、愛犬を世話する文前大統領の姿を見せようとする。

【表】文在寅大統領任期満了前に上方修正された温室効果ガス削減目標

 退任から1年もたたない前大統領が主役のこの映画には封切り前からさまざまな懸念が示された。「5年間成し遂げ成果があっという間に崩れ虚しい思いだ」という文前大統領のインタビュー映像が先行公開された瞬間、懸念はピークに達した。

 4月29日に全州国際映画祭で公開された映画には文前大統領が直接政治的な懸案に言及する部分はなかった。「5年間の成果」という部分もカットされている。

 しかし、台詞がないだけのことだ。映画は「海洋水産部公務員殺害事件」「沈みゆく原発」「脱北漁民強制送還」など政権交代後に論争になったか再調査が行われたことを記事タイトルで羅列し、市民社会運動家チェ・スヨン氏の言葉で文前大統領の心中を間接的に伝える。

 「(文前大統領が)徹夜でやったことが、ある瞬間何もなくなるのを見て、あまりにも虚しく、このまま進んでいくのかと考える日があるようだ」

 北朝鮮から贈られた2匹の豊山犬ソンガンとコムを飼い続けられなくなったことを巡ってはさらに露骨だ。ソンガンとコムを自らの意思で見送る日、金正淑(キム・ジョンスク)夫人は涙を見せ、文前大統領は犬が閉じ込められた鉄格子に触れる。犬を強制的に奪われたようなニュアンスを漂わせる。

 康京和(カン・ギョンファ)、金尚祚(キム・サンジョ)、金宜謙(キム・ウィギョム)、都鍾煥(ト・ジョンファン)、任鍾晳(イム・ジョンソク)の各氏らいわゆる文在寅派の人物を総動員し、「民主主義をきちんと遂行した最初の政府だ」「こんな忍耐心を持った人物は世界にいないだろう」「(仕事をしながら)歯が抜けたということだけでも尊敬に値する人物だ」などという「文飛御天歌」(朝鮮王朝初期の王の功績を称えた歌集『竜飛御天歌』に例えた表現)を詠んでいるのは恥ずかしい思いがするほどだ。人間を偶像化するのは北朝鮮だけだと思っていた。

 5年間の税金ばらまきによる財政悪化、政府負債の大幅な増加、数十回の対策にも高騰を続けた住宅価格、国民分裂の発端となったチョ・グク問題などには何も触れない。

 それでも映画が終わると、2000席余りを埋め尽くした観客は3分間拍手した。涙をぬぐう人も多かった。住宅価格の高騰が引き起こした賃貸保証金詐欺で命まで絶った庶民、馬車が馬を引くという所得主導成長で崖っぷちに追い込まれた自営業者もこの映画を見て果たして拍手できるだろうか。

ナム・ジョンミ記者

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