韓中関係の新たな「時限爆弾」…局長級の中国大使・ケイ海明氏の無礼な言動

 2020年1月に韓国に着任したケイ海明駐韓中国大使(ケイは刑のつくりがおおざと)は中国外交部(省に相当、以下同じ)アジア局副局長やモンゴル大使などを歴任した。韓国は中国駐在大使に大統領の側近を任命しているが、中国は副局長クラスの官僚を韓国駐在大使として派遣し、2010年の張キン森(キンは金の下に金が二つ並ぶ)大使以降は局長クラスを大使に任命している。赴任前に外交次官だった謝鋒・駐米大使、同じく外務次官補だった呉江浩・駐日大使はもちろん、元対外連絡部(党と党の交流機関)次官で4月に北朝鮮に着任した王亜軍・大使よりも格下だ。中国はイタリア、オーストラリア、シンガポールなどにも韓国と同じく局長クラスの大使を派遣している。韓国に着任する中国大使は退任直前の外交官ばかりで、そのほとんどは韓国が最後の赴任先となっている。

【表】問題となったケイ海明・中国大使の数々の発言

 ケイ大使は大使職を含め韓国に4回、北朝鮮に2回赴任しており、かつて北朝鮮の沙里院農業大学に留学したたキンめ韓国語も流ちょうに話せる。2010年の哨戒艦「天安」爆沈事件当時、この問題と関連して韓国統一部の玄仁沢(ヒョン・インテク)長官が張キン森・中国大使(いずれも当時)に「責任ある姿勢」を求めると、その時公使参事官だったケイ大使は韓国語で「それはひどすぎないですか」と抗議した。課長クラスの外交官が駐在国の長官を非難する非礼だった。

 昨年の韓国大統領選挙でもケイ大使は内政干渉とも受け取れる発言で問題となった。2021年7月に当時野党の有力な大統領候補だった尹錫悦(ユン・ソンニョル)元検察総長がメディアとのインタビューで「在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)は明らかに韓国の主権に属する領域」と発言すると、ケイ大使は翌日同じメディアに掲載された「尹錫悦インタビューに対する反論」と題された寄稿で「理解できない」と反論した。外交使節が駐在国の大統領候補の掲げる外交政策をメディアを通じて批判するのは極めて異例で、「大統領選挙への介入」と受け取る見方もあった。しかし当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権はケイ大使に対して公開書簡など抗議のための対応は取らなかった。

 ケイ大使は着任後の2020年2月の記者懇談会では、韓国政府によるコロナ感染対策について「高く評価はしない」と発言した。外交的に「評価しない」という表現は「同意あるいは支持しない」という意味で使われる。

 そのケイ大使が韓国野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表と面会した席で「米国の勝利に賭ける人は後に必ず後悔する」という趣旨の発言を行った。これを受け韓国では与党などから「ケイ大使追放」を求める声も上がった。国会国防委員会で与党・国民の力の幹事を務める申源ソク(ソクはさんずいに是)議員は当時フェイスブックに「大韓民国を属国と見なさない限り、あり得ない盗っ人たけだけしい態度」「政府は挑発的な妄言を続けるケイ大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(PNG・その国に駐在する外交官として好ましくない人物)』に指定し、追放せよ」と求めた。PNGとは深刻な犯罪、主権侵害などで国の利益を顕著に侵害する特定人物の外交官赴任を拒否、あるいは現職の場合は追放する措置で、これまで韓国と中国の間でこれが表面化した前例はない。与党などからは「追放まではしなくとも、同じような問題が繰り返されないよう、ケイ大使をはじめとする中国の外交官幹部に対しては政府との面会の延期や拒否など非公式な処分が必要だ」との声も出ている。中国駐在の韓国大使と比較すると、ケイ大使は韓国国内で官僚や政治家などとはるかに自由に接触してきた。

 ケイ大使の強硬な発言についてはいわゆる「戦狼(せんろう)外交」との見方もある。この「戦狼外交」は習近平政権発足後は特に目立ってきた。米中関係、あるいは台湾問題など中国が国益にとって重要と見なしている問題について、外交官らがメディアへの出演、寄稿などを通じて過激な言動を繰り広げる外交を意味するものだ。今回の李在明代表との面会でもケイ大使は事前に原稿を用意していたため、ケイ大使の発言内容は中国外交部とあらかじめ調整されていたと考えられる。

 その一方でケイ大使は1964年生まれのため、大使からの離任や引退が近いことから個人として必要があったとの見方もある。退任後はシンクタンクなどを除けば韓国関連の業務で新たな職務や地位は得がたい。そのため中国の指導部に「言うべきことは言う外交官」として顔を売っておきたかったという見方だ。ケイ大使に会ったことのある人物によると、ケイ大使は「尹大統領は米国や日本と密着し、中国に対してはさほど関心を示さない」と不満をこぼし「自分の立場が苦しい」と訴えていたという。

パク・スチャン記者

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