韓国の市民社会、知性でデマを退けてこそ民主共和国は存続できる【寄稿】

今回怪談を論破した科学者らは民主共和国の真の英雄
陰謀論を撃破したければ、軍警ではなく市民の論理力を
20年近いフェイクニュース勢力の所業を残らず記録し、満天下に知らしめるべき

 自由民主主義は、表現の自由と思想の多様性を根幹とする。政府は表現の自由をできる限り許容した後、思想の場の外へと退く。政府の退いた世論の場は、完全に市民社会の領分だ。全体主義とは異なり、自由主義体制では政府が公権力で反対世論を鎮圧することはできない。怪談や陰謀論が広まったら、その責任は全くもって市民社会にある。市民が乗り出して真実を明らかにできなければ、うそをつく勢力の支配の下に置かれてしまう。まさにその点で、今回勇気をもって公論の場に出て怪談と風説を論破した科学者らこそ、民主共和国の真の英雄たちだ。

 自由主義の創始者、ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill、1806-73)は、功利的効用に基づいて表現の自由を擁護した。ある社会が、うそを退けて真実を明らかにしようと思うのであれば、全ての構成員が自らの見解を表明できなければならない、という論理だった。狂人の詭弁(きべん)、妄想家の妄念、陰謀論者の臆説に至るまで、あらゆる考えが自由に表現できてこそ、社会は批判を通してしっかりとした論理を備え、真実に迫ることができる。それでこそ個人が自らの固有性(individuality)を実現することができ、人類の文明は発展し得る。人類の知性と歴史の進歩を信頼した、ビクトリア時代の楽観論だった。

 自由主義とは、そのように「開かれた社会の敵たち」にも自由を保障する、開放的で、寛大で、公平無私な理念だ。その根底には、人類の知性に対する信頼が横たわっている。理性の力で不合理と不条理を退け、知性の光で無知蒙昧(もうまい)を悟ることができる、という信念だ。しかしこの世には、表現の自由を悪用してうそをばらまき、法の庇護を受けつつ法治を破壊する勢力がいる。彼らの怪談と陰謀論を退治しようと思ったら、軍警の物理力ではなく市民の論理力が必要だ。市民が科学と常識を拒否し、社会的責任感と倫理的自律性を喪失した瞬間、自由は失踪し、民主共和国は崩れる。

 このところ、韓国の市民社会は開かれた社会の敵たちによっていつもむなしく振り回されてきた。遅まきながらようやく、科学者たちが公論の場で科学と常識を守っているので、まだ希望はある。この際、過去およそ20年にわたりフェイクニュースやでたらめな陰謀論で憲政秩序を破壊してきた記者、政治家、大学教授、法曹人、市民運動家など扇動勢力の蛮行を残らず記録し、満天下に知らしめねばならない。市民の知性で怪談とうそを退けてこそ、民主共和国は存続できる。

宋在倫(ソン・ジェユン)カナダ・マックマスター大学教授(歴史学)

【写真】「汚染水海洋放出反対」…済州島の海女らが海に広げた旭日旗

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