古代から近世に至るまで国力の尺度は軍事力と経済力であり、他国を圧倒する国力を持つ国は地域全体に号令する覇権国として君臨した。しかし、20世紀に入って国家主権が国際法で保障され、侵略戦争が不法化された今、覇権国の要件は一層厳しくなった。覇権国になろうとする国は、単に他国を国力で圧倒するだけでなく、同盟国と友邦国を外国勢力による侵略から保護し、経済支援まで提供することで、彼らの自発的な服属と追従を確保することが不可欠な要件となった。
第2次世界大戦以降40年にわたって続いた冷戦体制で、米国とソ連は共に巨大同盟集団を維持し保護するために、巨額の軍事的、経済的犠牲に耐えなければならなかった。米国は第2次世界大戦で廃虚となった西欧と東アジアに膨大な経済援助を提供し、共産圏による侵略を受けた韓国とベトナムに長期間大規模派兵を断行し大きな犠牲を払った。ソ連も兵器、石油、食糧など大規模な無償援助を冷戦時代を通じて陣営所属国に提供してきた。ソ連はその負担に耐えられず、結局経済的破綻と体制崩壊を迎え、それによってソ連の無償援助に依存していた共産主義陣営は一夜にして崩壊した。
冷戦体制の崩壊後30年ぶりに世界は、鄧小平の韜光養晦(とうこうようかい、「才能を隠して、内に力を蓄える」という中国の外交・安保の方針)という教示を破って対米覇権への挑戦を宣言した中国の出現により、陣営対決体制の復活を迎えている。米中の覇権対決とウクライナ戦争をきっかけに、世界的陣営の対決体制を形成していく新冷戦体制の主役は今も昔も変わらない。ただ、ソ連の衛星国だった東欧諸国が今ではNATO(北大西洋条約機構)に転向した点だけが異なる。しかし、「米国打倒」を叫びつつ全体主義陣営の新しい覇権国候補に名乗り出た中国の対外的行動は、冷戦時代のソ連と比べると異なる点が多い。