「(国際原子力機関〈IAEA〉の)報告書の内容は根拠もなく、証拠もない空疎なものであるというべき」。7月5日、IAEAのグロッシ事務局長訪韓を前に、進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表が尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に向けて突き出したメッセージだ。一言で表現すると「IAEA不信論」だ。
【写真】市民団体を避けながら韓国に入国するグロッシーIAEA事務局長
こうした考えは、李代表一人だけのものではない。韓国の野党政治家や支持層の間にあまねく広がっている。ある野党系ネットメディアは「日本政府がIAEAを買収した」というような陰謀論を流布する記者会見を開くということまでやった。日本とIAEAが「八百長」をしているという発言も出た。
この人々は、なぜこういう話にもならない扇動を続けるのだろうか? 科学的事実のみを並べてみれば、中学2年生でも理解できることだ。だがこの人々は説得されない。これは科学の問題だが、それが全てではない。特定の政治勢力が共有する世界観の問題が根底に存在しているのだ。
韓国憲法の前文をちょっとのぞいてみよう。「悠久の歴史と伝統に光り輝くわが大韓民国は、三・一運動で建立された大韓民国臨時政府の法統」を継承すると明示されている。ここで核心となる言葉は「大韓民国」だ。大韓「民国」が存在する前、既に大韓「帝国」という主権者らがおり、彼らが新たな国を作り出した-という建国叙事だ。
三・一運動が起こった背景を考えてみる必要がある。国際連合の前身である国際連盟の創始者、ウッドロー・ウィルソン米国大統領は民族自決主義を主唱した。各民族には自分の政治的運命を自ら決定する権利があり、この権利は他民族の干渉を受け得ない、というものだ。
第1次世界大戦の戦勝国かつ世界最強の大国である米国が、新たな国際秩序を提示していた。これは、天子の国・中国を中心に周辺として他国を朝貢の対象とする中国式国際秩序とは根本的に異なるものだった。
ウェストファリア条約以降形成された近代的主権国家システムを全世界に同等に適用すべきだという原則論に、植民地朝鮮人らはすぐさま呼応した。三・一運動は、単に日帝の治下から抜け出そうとするものではなかった。日本の支配から抜け出し、中国の亡霊を振り払い、米国が提示する新たな国際秩序に賛同しようという巨大なあがきだった。