さようなら、宮崎駿監督【朝鮮日報コラム】

さようなら、宮崎駿監督【朝鮮日報コラム】

 日本のアニメーションの巨匠、宮崎駿監督を知ったのは20年ほど前、記者が小学生だった頃だ。ある日学校で、宮崎監督の手がけた『千と千尋の神隠し』(2001年公開)を見せてもらったのだが、宮崎監督独特の叙情的な画風と初めて見る日本の村の風景や街並みに魅了された記憶がある。自分だけでなく、そのとき映画を見た同年代の子どものほとんどが、宮崎監督の映画を通じて日本という国の実際の姿を見たのだった。

 宮崎監督の新作『君たちはどう生きるか』が先月25日、韓国で公開された。宮崎監督は当初、2013年の映画『風立ちぬ』を最後に引退することを宣言していたが、「まだ伝えたいことが残っている」として17年に復帰した。ファンの間では「予想通りだ」との反応が聞かれた。『もののけ姫』(1997)、『千と千尋の神隠し』などが公開されたときも、引退を宣言しながら後に引退を撤回したからだ。しかし今回の新作が公開された後、ファンたちは「今度こそ本当に最後だろう」と考えているような雰囲気だ。宮崎監督が82歳であることに加え、宮崎監督のアニメ映画を制作するスタジオジブリが日本テレビの子会社になったからだ。ジブリ側も17年に宮崎監督の復帰を発表した際「これが本当に最後」としていた。

 公開直後に鑑賞した『君たちはどう生きるか』にも、宮崎監督の引退を暗示するような仕掛けが至る所に隠れていた。これまでの作品で扱ったテーマを1カ所に集約しているようにも思えたが、宮崎監督が自ら「私の時代は終わった」と伝えているように感じられる部分が少なくなかった。

 宮崎監督はこれまでの作品で主に、社会に対する巨大なメッセージを放ってきた。『もののけ姫』では自然と人間の共生というテーマを扱い、『千と千尋の神隠し』では「自分自身を忘れるな」という教訓を投げかけた。『となりのトトロ』では大人たちに子どもの頃の童心を思い出させ、『風立ちぬ』ではこれまで災害と戦争という苦しみの中で生きてきた日本人の生存力と反戦意識を描いた。

 このように、壮大なテーマを作品に込めてきた宮崎監督が、今回の作品に関しては「孫が誇りに思ってくれるような映画を作りたかった」と言った。社会へのメッセージを込めた作品ではなく、自身の引退を見届ける家族へのプレゼントだというわけだ。今年2月に日本で行われた非公開の試写会で、宮崎監督は「見ている間、何が何だか分からなかったことでしょう。正直言って私もそういう部分がありました」と打ち明けたという。実際に公開後は観客のほとんどが、時空を超越する内容のせいで「難解だ」と感想を口にした。しかし、宮崎監督の制作意図を知ってからあらためて見ると、これまでの作品のように各シーンに綿密な伏線と仕掛けを張り巡らせながら教訓を伝えるというよりも、自身が本当に伝えたいこと、孫に残したいストーリーを、あまり気負わずに描いたのではないかと思えてくる。

 個人的な思いと社会的発言を重ね合わせ、未来の世代に希望を与える人生。82歳まで生涯現役として生きてきたこの芸術家の最後の作品を、より多くの観客に見てほしいと願う。

キム・ドンヒョン記者

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