しかし、軍慰安婦制度は、それが強制連行であろうと詐欺であろうと、性暴力であろうと性売買であろうと、日本兵と恋をしていようがいまいが、国家の組織である軍隊が女性に加えた明白な暴力だ。軍当局と行政機関の庇護と黙認なしに慰安婦の動員は不可能だったというのは、日本の研究者らも同意しているところだ。朴裕河が主な根拠にしている千田夏光の『従軍慰安婦』すら「軍の命令によって戦場へ連れていかれ、第一線将兵らの性欲処理欲求に利用されていた女性」と慰安婦を定義する。『帝国の慰安婦』と同時期に出版された、尹明淑(ユン・ミョンスク)の日本での博士学位論文に基づいた『朝鮮人軍慰安婦と日本軍慰安所制度』にもこれを裏付ける資料と証言がぎっしり詰まっている。
もちろん『帝国の慰安婦』は、過度の民族主義を背負って慰安婦談論を独占し、日本政府に強硬一辺倒で対応してきた挺(てい)対協(正義連)の運動方式を正面から批判したという点で意義がある。日本政府がなぜあれほど法的賠償の責任を拒否しているのかも詳細に明らかにした。
問題は、朴教授が「慰安婦被害のハルモニ(おばあさん)たちのために書いた」というこの本が、安倍政権と日本の極右の論理を正当化する上で寄与したという点だ。韓国国内からも「売春が誇りなのか」「偽慰安婦をえぐり出せ」という侮辱と蔑視が降り注ぎ、左派と正義連はこれを反日扇動に利用した。朴教授は「左右どちらも私の本を誤読した」と言ったが、誰のための和解なのか、誤読してしまうような文章を書いたのは著者の責任だ。
金学順(キム・ハクスン)ハルモニの最初の証言から30年が経過したが、日本軍慰安婦被害者問題の解決ははるか遠いものに見える。一次的な責任は正義連の独走を傍観した韓国政府にある。朴槿恵(パク・クンヘ)政権が安倍政権と紆余(うよ)曲折の末に妥結した合意すら、文在寅(ムン・ジェイン)政権が紙切れにした後では、一歩も前進していない。「芸をするのはクマ、金をもらうのは胡人」という李容洙(イ・ヨンス)の憤怒のように、韓日両国間の交渉でも、正義連や韓国知識人社会でも、ハルモニたちは常に疎外された。
今からでも、その声を聞かねばならない。日本政府の介入はなかったという主張に怒って慰安婦被害の申告をした姜徳景は「日本政府が真相を明かしてくれるのであれば、賠償を受け取れなくても関係ない」という言葉を残して世を去った。大邱で会った李容洙ハルモニは「お金が目当てなわけではなく、死ぬ前に心のこもった謝罪を受けたい」と涙を流した。
結局、外交で解決しなければならない。日本の首相が頭を下げてハルモニたちの手を取ることが、その第一歩だ。それができるのは大統領と韓国政府だけだ。
金潤徳(キム・ユンドク)先任記者