中国SNS上で注目集めるヒトラーの動画、その背景とは

「パレスチナ人民があなたを求める」などの書き込みが相次ぐ
『我が闘争』を紹介する動画も
「中立を掲げる中国がパレスチナ側に」との見方

 66万人のフォロワーを持つダーウィン(中国版SNS=交流サイト)のある歴史関連アカウントに先月31日から今月7日までヒトラーを紹介する11の動画が掲載された。中でもヒトラーが「われわれの敵はユダヤ人だ」と演説する場面を再現した動画には40万の「いいね」が付いた。コメントには「かっこいい」「よく言った」などの称賛や、またナチス式の敬礼写真なども大量に掲載された。北京で外資系企業に勤務するあるサラリーマン(43)は「フェイスブックでは『ヒトラー』と書くだけでアカウントが停止となるが、中国のSNSではヒトラーが英雄のように称賛されている」と述べた。

 先月7日から始まったイスラエルとハマスの戦闘が今も激しく続く中、中国のSNSではユダヤ人を大量虐殺したアドルフ・ヒトラーが注目を集めている。ダーウィンやウェイボー(中国版X)、ビリビリ(中国版ユーチューブ)などでは先月末からヒトラーを肯定的に描く動画や書き込みが相次いでおり、またその称賛コメントも検閲なしに掲載されている。イスラエルとハマスの戦闘で中国は早くから中立を表明したが、最近はイスラエルと距離を置いてパレスチナ寄りとなり、中東の国々を味方につける動きを示しているため、中国国内でも「反ユダヤ感情」が広がっているようだ。

 ダーウィンではヒトラーを「小胡子(ミスターひげ)」と呼び、著書の『我が闘争』を紹介する動画も最近増え始めている。ヒトラーを「欧州を恐れさせた男」と称賛するコンテンツもある。ウェイボーではヒトラー関連の書き込みに「パレスチナ人民はあなたを求めている」「今中東はあなたを待ち望む」などのコメントが付いており、これらは最大の推薦を受けている。

 この一連の流れはドイツの実業家がナチス治下のユダヤ人を救出する内容の映画「シンドラーのリスト」(1993)の評価にも影響している。ビリビリでは一時この映画の評価が従来の9点台から7点台にまで下がり、コメント欄には「シンドラーのリストを見て涙を流したが、今改めて見ると蛇を救出する農夫の話だ」との書き込みもあった。これとは対照的に地下におけるヒトラーの最後の生活を詳しく描いたドイツ・イタリア映画「ダウンフォール(ヒトラー〜最期の12日間〜)」は中国で再び注目を集め、評価も上昇している。

 中国国営メディアも反ユダヤ感情をあおっている。中国国営の環球時報は先月25日、米カリフォルニア州リッチモンド市議会でパレスチナ支持者が「われわれはかつてヒトラーの反対側に立っていたとすれば、今はイスラエルの反対側にいる」と述べたと詳しく報じた。復旦大学の沈逸教授(国際関係学)はイスラエルによるガザ地区攻撃をナチスによるかつての弾圧になぞらえた。環球時報の胡錫進元編集長はウェイボーに「イスラエルが地球を太陽系から掃き捨ててしまわないか心配だ」と書き込んだ。

 米ウォールストリート・ジャーナルは最近中国で広がる反ユダヤ感情について「中国がかつてユダヤ人の避難先だった歴史的事実と対照的」と指摘した。実際に第2次世界大戦当時、数万人のユダヤ人が欧州での迫害から逃れて上海やハルビンに移住し、この周辺は一時ユダヤ人国家建設の候補地ともなった。中国とイスラエルは1992年に国交を結んで以来、経済面での関係を拡大してきた。

北京=イ・ボルチャン特派員

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