盗聴・盗撮を用いた「懲罰メディア」のおとり取材【朝鮮日報コラム】

 論議を呼んだ「金建希(キム・ゴンヒ)夫人盗撮」報道の論点は二つだ。まず、金建希夫人の行動に関連する問題だ。大統領夫人が身元も検証されていない人物と連絡を取り、プライベートな空間で会い、ブランド品を渡されたという事実だけでもショッキングだ。これまで金建希夫人に対する攻撃はフェイクだったり、故意に貶めようとしたりするものが多かったが、夫人自身が不適切な言動で物議を醸した例も少なくない。金建希夫人の行動が大統領室による公式なコントロール外にあるリスクも今回明らかになった。

 巷では大統領の周囲にいる誰もが金建希夫人の問題を直言できないという話が広まっている。報道から5日以上たっても大統領室が何の立場も示さなかったのはそのためだと言われている。いわゆる「金建希リスク」が現実となったのだ。このリスクを細かく管理できなければ、尹錫悦政権は大きな打撃を受けかねない。盗撮報道に対して、まずは何か立場表明をして当然だ。

 さらに大きな争点は取材相手を罠にかけるような取材手法だ。自称メディアが違法な方式で取材を行うことがどこまで許されるのかという問題だ。盗撮は在米韓国人の牧師が行ったが、それをセッティングしたのはインターネットメディア「ソウルの声」だったという事実が後日明らかになった。そのメディアの記者が超小型カメラとブランド品のバッグと化粧品を購入し、牧師がそれを持って金建希夫人に接近したという。情報提供を受けて報道したのではなく、メディアが牧師を介して罠を仕掛け、盗撮を企画したのだった。私はこのことの方が構造的で危険な問題だと考える。「金建希リスク」は政権の評判に関わる問題だが、メディアもどきの暴走は我々が苦労して構築した民主主義のルールを破る国家的問題であるためだ。

 同意なしに他人の撮影・録音を行うことは基本的に違法だ。言論財団の倫理綱領も「記者は盗聴、隠し撮りなどでプライバシーを侵害してはならない」と規定している(第2条5項)。ただし「公益のために避けられない場合」だけが例外だ。不衛生な飲食店や麻薬取引現場への潜入取材などが代表的だ。しかし、その場合も飲食店が不衛生だ、特定の場所で麻薬が取引されるなどといった情報提供など公益的要件が具体的で明確に存在しなければならない。記者が飲食店で所構わずみだりに撮影をして構わないはずはない。

 記者はニュースの当事者ではない。第三者の立場で事象を記録する観察者であって、事件に割り込んで事実を創造することはメディアがなすべき領域ではない。今回の論争で「ソウルの声」は企画者でなおかつ設計者の役割を果たした。観察というレベルを超え、カメラと贈答品を準備し、盗撮ドラマを演出した「ソウルの声」は金建希夫人に「人事上の便宜供与」疑惑があり、罠を仕掛けたと話す。しかし、問題のメディアの盗撮映像には人事上の便宜供与に関する話が出てこない。「疑惑を取材する」と言っておきながら、ブランド品をえさに別の罠を仕掛けた。罠を仕掛けなければ存在しなかった事実をつくり出したのだ。

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  • ▲「ソウルの声」のペク・ウンジョン代表が2022年6月、ソウル市瑞草区の尹錫悦大統領の私邸前で大統領夫人、金建希氏の逮捕などを求める集会を開いている。/ニュース1

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