冷遇される「民弁」メンバーたち【萬物相】 韓国総選挙

 1984年9月1日から3日間、ソウルに大雨が降った。最も被害が大きかったのが望遠洞だ。330ミリを超える集中豪雨で遊水池にあるポンプ場の水門が壊れ、1万世帯余り浸水し、数万人の被災者が発生した。当時は天災と認識されたが、趙英栄(チョ・ヨンレ)弁護士は違った。手抜き工事を行い、遊水池の管理を誤ったソウル市と建設会社による人災だとして、住民らによる集団訴訟を起こした。受任料は勝訴した場合に受け取るとし、結局住民約1万2000人が総額約53億ウォン(約6億円)の賠償を受けた。

 この訴訟を契機に集まった弁護士らが結成した団体が後の「民主社会のための弁護士会(民弁)」になった。当時としては珍しく、韓国語の固有語で「モイム(集いの意味)」という単語を団体名に使用したのが趙弁護士だ。民弁の発足初期には「人権擁護と民主主義の発展」という目的にふさわしく活動した。朴鍾哲(パク・チョンチョル)氏拷問致死事件(1987年)、富川警察署性的拷問事件(1986年)など注目を浴びた事件の弁護を引き受けた。カネにならないため、一般の弁護士が引き受けない事件の弁護が彼らの役割だった。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅(ムン・ジェイン)の両元大統領はいずれも民弁出身だ。文在寅政権は「民弁全盛時代」だった。大法院、憲法裁判所など司法府の要職を握った。行政府の民間人ポスト、さまざまな真相調査委員会も民弁が主導した。2020年の総選挙では11人が国会議員に当選した。「仮想通貨取引」で知られる金南局(キム・ナムグク)議員、「セクハラ発言疑惑」の崔康旭(チェ・ガンウク)元議員ら大半が民主党所属だったため、「民主党のための弁護士会」とも呼ばれた。民弁が権力化するにつれ、さまざまの問題が表面化した。朴元淳(パク・ウォンスン)元ソウル市長の性犯罪疑惑、李容九(イ・ヨング)元法務次官のタクシー運転手暴行など「反人権」ぶりも目立った。真実・和解のための過去史整理委員会(過去史委)で自身が調査した事件の弁護を引き受け、数十億ウォンの受任料を受け取り処罰を受けた人物、徴用工訴訟を引き受け、第3者補償案を拒否しておきながら、被害者が補償金を受け取ると自身の成功報酬を受け取った人物も民弁出身だ。スパイ容疑者の弁護を引き受け「北朝鮮追従」だとして論議も呼んだ。

 今回の総選挙で民弁は衛星政党に公然と反対した。しかし、いざ衛星政党が結成されると、執行部が先を争うように公認を申請した。現職の朴用鎮(パク・ヨンジン)議員の選挙区で公認を受けた民弁弁護士は、性犯罪事件専門の弁護を行っていた経歴が明らかになり、出馬を断念した。不動産10物件に38億ウォンもの投機を行い、それを隠していたため、公認を取り消された候補も民弁出身だ。

 趙英栄弁護士は人権弁護士として名高いが、政治とは距離を置いてきた。生前に「全ての権力は放置すれば乱用される」「自分が正義だと考えた瞬間、乱用の危険に陥る」と述べた。民弁出身者が肝に銘じてほしい言葉だ。

黄大振(ファン・デジン)論説委員

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