韓国の選挙戦に出現する「白衣民族」【萬物相】

 ファラオを崇拝した古代エジプト人は、白い服を好んで着ていた。白は太陽を象徴した。ギリシャやローマでは、花嫁に白い礼服を着せた。純潔を意味すると見なされていた。バロック時代には、天使を白で表現した。白は政治的純潔も意味した。ローマの執政官や元老院議員らは白い羊毛の上着(トーガ)をまとった。公職の象徴だった。英語の公職選挙候補者「candidate」は、「白衣を着た者」という意味のラテン語「Candidatus」に由来する。政府の報告書も「白書(white paper)」と呼ぶ。

 韓国人は、三国時代より前から白い服を好んで身に着ける「白衣民族」だった。中国の『魏志』によると、扶余人は白い上衣・下衣を着た。太陽を崇拝する祭天信仰の影響だ。だが朝鮮王朝時代には、国から白衣禁止令を下したこともある。汚れが目立って洗濯の手間がかかり、青い色を尊重する儒教と合わない、という理由からだった。日帝時代には、白を着たら官公署への出入りを禁じ、墨を掛けた。それでもやめさせることはできなかった。三・一独立運動や義兵蜂起では全てが白い波だった、

 将帥が戦いに敗れて懲戒されたら、白衣従軍した。現在の韓国政界では、政治的再起を図るときにこの言葉を使う。2012年、金武星(キム・ムソン)元代表はセヌリ党(現与党「国民の力」の前身の一つ)の公認から脱落すると不出馬を宣言し、白いジャンパーを着て支援遊説に乗り出した。任鍾晳(イム・ジョンソク)元大統領府秘書室長も最近、公認から脱落して「白衣従軍したい」と語った。

 2016年、当時セヌリ党を離党したユ・スンミン、尹相炫(ユン・サンヒョン)、朱豪英(チュ・ホヨン)、安相洙(アン・サンス)議員は競って白いジャンパーを着て遊説した。白の象徴効果に、悔しい思いまで込めたのだ。2020年の総選挙で民生党から湖南(全羅道地方)に出馬した千正培(チョン・ジョンべ)候補は、党のカラーである緑ではなく白い服を着た。先の韓国大統領選のとき、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領と候補一本化を行った安哲秀(アン・チョルス)議員も、白いジャンパーを着て支援遊説を行った。

 4月10日に投開票が行われる韓国総選挙の場に、またも「白いジャンパー」が登場した。いわゆる「険地」に出馬する候補らだ。進歩(革新)系最大野党「共に民主党」からソウル瑞草乙に出馬する洪翼杓(ホン・イクピョ)候補、江南乙に出馬する姜清曦(カン・チョンヒ)候補は、民主党のカラーである青ではなく白のジャンパーを着た。記号と名前だけを青にした。選挙区では「民主党の候補だと分からなかった」と言う有権者もいる。保守系与党「国民の力」から水原丁に出馬する李水晶(イ・スジョン)候補、ソウル銅雀乙の羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)候補、中・城東甲の尹喜淑(ユン・ヒスク)候補も白いダウンジャケット姿だ。いずれも当選が難しい選挙区だ。白は、選挙区内の拒否感を減らして支持率を上げるのに役立つという。こんな「脱色戦略」を使うとは、選挙戦の苦しさはいかばかりかと思う。ただし、それが通用するかどうかは注視すべきだろう。

裵成奎 (ペ・ソンギュ)記者

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