おべっかの技術【萬物相】 石破・トランプ初会談

 2023年に亡くなったヘンリー・キッシンジャー氏は冷戦時代、ソ連と中国間の亀裂を利用して米中の国交を正常化に導いた。キッシンジャー氏にとっては「おべっか」も重要な外交手段だった。1971年に中国を極秘訪問し、当時の周恩来首相と会ったキッシンジャー氏は、会談の冒頭から「中国の文化的優越性に比べれば、米国は開発中の新興国だった」「(中国は)美しく神秘的な国だ」と相手を持ち上げた。この会談で米中は、リチャード・ニクソン大統領の訪中に合意した。米国の作家、ウォルター・アイザックソンは後日、キッシンジャー氏の伝記で、同氏について「おべっかとお世辞で敵の承認を得た後、彼らを互いに戦わせようとした」とつづった。

【写真】石破首相が尹大統領と握手する様子

 ソ連の独裁者スターリンは1937年、自分に対するおべっかが「安易さ」を招くとして「称賛禁止令」を出した。しかし、疑い深いスターリンの機嫌を取るためのおべっかや個人崇拝は途切れることがなかった。北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席も、おべっかが得意でスターリンに認められたという説がある。1950年7月に金日成主席がソ連に送った手紙は、次のように始まる。「スターリン同志、私の最も深い尊敬と感謝を表明することをお許しください」

 7日にワシントンを訪問し、ドナルド・トランプ米大統領と初の会談を行った日本の石破茂首相について、米紙ニューヨーク・タイムズは「おべっかの芸術(the Art of Flattery)」を使ったと報じた。少し前にトランプ大統領と会談したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、トランプ大統領を「非常に尊敬される」「偉大な友人」だとおべっかで持ち上げたが、石破首相もそれに劣らなかったのだ。記者会見で石破首相が「テレビで見ていた方(トランプ大統領)を間近に見ることの感動は格別なものがある」と述べると、トランプ大統領は満面の笑みを浮かべた。

 石破首相はトランプ大統領に金の兜飾りも贈った。トランプ政権の1期目には、安倍晋三元首相が金色のゴルフクラブを贈り、歓心を買った。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領も当時、米国で「おべっかでトランプを操る」と言われた。就任から1年もたたないトランプ大統領に対し「大統領が築いた偉大な米国を高く評価する」と述べた。2018年に米朝首脳会談が発表されると「トランプ大統領の指導力は、南北の住民、さらには平和を願う全世界の人々から称賛されるだろう」と述べた。

 トランプ大統領は、自身のことを「閣下」と呼んで「偉大な決断と素晴らしいリーダーシップ」を称賛した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記からの手紙についても、何度も誇らしげに語ってきた。おべっかのせいではないだろうが、今回の米日首脳会談でもトランプ大統領は「金正恩と関係を築くだろう」と述べた。今の時代、外交官であれば皆「おべっかの技術」を入念に磨く必要があるようだ。

金真明(キム・ジンミョン)記者

<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) Chosunonline.com>
関連ニュース
関連フォト
1 / 1

left

  • ▲イラス=イ・チョルウォン

right

あわせて読みたい