尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弁護団が憲法裁判所での弾劾審判で「中国がわが国の選挙に関与できる状況であり、野党が『親中』であることも考慮すれば、非常戒厳令は避けられなかった」と主張した。さらに「中国は(サイバー攻撃などさまざまな作戦手段を同時に活用する)ハイブリッド戦を展開できる」「中国は偽装サイトを使ってうその情報を広めている」などとも指摘した。韓国の選挙に中国が不正に介入したとの主張だが、それらの根拠は提示できなかった。これについて申源湜(シン・ウォンシク)国家安保室長は「よく分からない」として明言を避けた。
尹大統領の弁護団は「戒厳令当日、選挙研修院で90人の中国人が逮捕され、米軍部隊の施設で取り調べを受け、不正選挙について自白したと報じられた」などと連日のように中国介入疑惑を主張している。しかし選挙管理委員会はもちろん、在韓米軍司令部もこの報道をすでに否定した。与党・国民の力の一部議員は「弾劾賛成集会には中国人たちが数多く参加している」と主張したが、これもその根拠は提示されていない。
ロシアや中国のような権威主義国家が海外の選挙に介入したとの疑惑は米国でも過去に何度も浮上した。しかし一般人でもない大統領やその周囲の関係者、与党の国会議員といった人物たちがこの種の主張をしたいのなら、最低限の根拠を同時に提示すべきだろう。ユーチューブなどで広がる漠然とした疑惑だけで他国を犯罪集団と主張するようでは困る。深刻な外交問題に発展する恐れもあるだろう。
これまで中国が韓国に対して取ってきた行動はまさに「傲慢(ごうまん)」そのものだった。在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)システム配備に対しては単なる報復にとどまらず「三不」を強要し、また事あるごとに経済や文化の面でも報復を続け圧力を加えてきた。国際平和の原則を語っただけで「火で焼け死ぬだろう」など過激なことを言われるケースもよくあった。また中国は韓国を含む世界50カ国以上の国々に秘密警察署を設置し、さらに2万人以上のサイバー部隊がさまざまなサイバー攻撃を続けてきた疑惑も浮上している。東北工程やキムチ・韓服の起源など歴史や文化の歪曲(わいきょく)、周辺国を侮辱する大国主義も深刻だ。この結果、中国に対する否定的な認識を持つ人は90%を上回っている。
ただし中国に対する国民感情と「中国は韓国の選挙や政治に介入している」と政府与党の関係者が主張するのは別次元の問題であり、これは国民の嫌中感情を政治に利用することにもつながる。尹大統領は「不正選挙の証拠はあまりに多い」と発言したが、今のところ実際の証拠は提示していない。しかしこれが外交問題にまで発展してしまえば国益には何のプラスにもならない。