2月19日に蔚山で予定されていたアジア・サッカー連盟(AFC)チャンピオンズ・リーグ・エリート(ACLE)の山東泰山(中国)と蔚山HD(韓国)の試合は、開始のホイッスルが鳴る2時間前に急きょ中止となった。山東側が「選手の体調が良くない」として突然棄権したからだ。集団で食中毒にかかったわけでもないのに、試合直前に集団で健康に問題が生じたというのだ。今後のクラブ対抗戦への出場禁止と罰金などの重懲戒も甘んじて受けると表明した。
山東がこのようなことになったのは、2月11日に中国で行われた光州FC戦で、山東の一部ファンが韓国の故・全斗煥(チョン・ドゥファン)元大統領の写真を掲げて光州の選手たちを挑発した問題のせいだ。中国メディアは、山東が蔚山戦を放棄した理由として「試合中にコントロールすることができない結果」を憂慮したと報じた。「全斗煥事件」に怒りを覚えた韓国ファンの気持ちに中国政府が敏感に反応したわけだ。山東という球団は中国国営企業が所有しているため、共産党が思いのままに対応を決められるのだ。
「戦浪外交」を積極的に推進していたかつての中国であれば、高高度防衛ミサイル(THAAD)韓国配備の時のように韓国の反発を力でねじ伏せようとしたはずだ。最近、韓国の一部の「嫌中挑発」に対しても、懸念を示す程度では終わらないだろう。中国の対外政策の設計者は、政治局の王滬寧・常務委員だ。江沢民氏・胡錦涛氏に続き、習近平氏まで3人の主席の下で中国の戦略を練っている。王滬寧・常務委員は今年初めの全国統一戦線部長会議で「海外の統戦(統一戦線)工作によって人心をつかめ」と指示した。共産党は、不利な局面で常に統一戦線という戦術を採用する。同調勢力を確保して主敵と戦うのだ。国民党と内戦状態にあった時、小資本家や知識人を抱き込んだのが代表的だ。今、習近平氏の主敵はトランプ氏だろう。トランプ氏が中国を包囲する前に「周辺国の人心」をできるだけ獲得する必要があるのだ。
中国は先ごろ、東日本大地震以降取りやめていた日本産水産物の輸入を再開することにした。日本と領有権を巡って争う釣魚島(日本名:尖閣諸島)付近に設置していた浮標(ブイ)も自ら撤去した。韓国に対しては、ビザ免除措置を先に再開し、限韓令(韓流禁止令)も近く解除する見通しだという。今月末には韓中日の外相会議が予定されている。
トランプ大統領は予測不可能だといわれるが、中国をけん制する姿勢だけは第1次政権の時から変わらない。ウクライナ戦争を乱暴なやり方で終わらせようとするのも、ガザ地区の住民を強制的に移住させてでも中東紛争を解決しようとするのも、米国のパワーの分散を防いで中国に集中させるための下準備かもしれない。トランプ大統領は兄弟国のようなカナダと欧州のNATO(北大西洋条約機構)に冷たい態度を取りながらも、韓国と日本に対してはいまだ特段の発言はない。むしろ韓国には、中国軍に対抗できる米軍の艦船を建造してほしいと求めた。プーチン氏と親しくなり、韓国と日本が同盟を維持すれば、中国を地政学的に包囲することができる。
現在、トランプ大統領の暴走に世界が驚がくしている。「世界の警察が、保護費をゆすり取るマフィアのボスになった」という米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューには、思わずうなずいてしまう。北朝鮮の核問題を巡る金正恩(キム・ジョンウン)総書記との「北核ショー」、韓国に対する防衛費(在韓米軍駐留経費)の請求書、在韓米軍や韓米合同演習に対する懸念が噴出するのも当然だ。相対的に習近平氏が正常に見えるほどだ。王滬寧氏の戦略どおり、韓国と日本の民心をつかむための統一戦線工作も本格化するだろう。
韓国で大統領選が前倒しで行われれば、世論調査の上では最大野党「共に民主党」が有利だ。しかし、民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は中国に「シエシエ(謝謝、中国語でありがとう)」と言い、米軍を「占領軍」と表現していた人物だ。日本が汚染水を放出すると「第二の太平洋戦争だ」とまで言った。米国は北朝鮮と中国をけん制するために韓米日の軍事協力を重視しているのに、李在明代表は韓米日の海上訓練を巡って「自衛隊の韓半島進入」「極端な親日」だとして反対してきた。最近では韓米関係や韓日関係を重視する発言をしているが、自らの言葉を覆した例は数え切れない。トランプ大統領の暴力と習近平主席のほほ笑みが交錯すれば、米中が衝突する前に、我々の内部対立が先に激化するのではないかと懸念している。
安勇炫(アン・ヨンヒョン)論説委員