国家情報院(韓国の情報機関)の洪壮源(ホン・ジャンウォン)前次長が作成したという「政治家逮捕名簿」のメモも、信ぴょう性を巡る論争に巻き込まれた。洪・前次長は憲法裁に2回、証人として出廷したが、メモ作成の場所や時点、経緯に関する内容をひっくり返した。尹大統領から直接的・間接的に「議員を引き出せ」「政治家逮捕」を指示されたという中心的証人の証言が、全て揺らいだのだ。
ある憲法学者は「ストップウオッチまで準備して弾劾審判を拙速進行したせいで、尹大統領が国会封鎖や政治家逮捕などの指示をしたのかどうか、依然としてはっきりしない状況」だとし「食い違う証言をどこまで信用すべきかを巡り、裁判官によって考え方は違うだろう」と語った。郭・前司令官らの証言が事実と認められれば、それだけ弾劾を認める確率は高まる。裁判官8人のうち6人以上が賛成すれば、弾劾は認められる。
■検察調書、弾劾の証拠として用いるか
検察調書の証拠能力問題も、尹大統領の弾劾事件に大きな影響を及ぼす要素だ。2020年に改正された刑事訴訟法は、当事者が否認した検察調書の証拠能力を認めていない。李鎮遇(イ・ジンウ)前首都防衛司令官、呂寅兄(ヨ・インヒョン)前防諜(ぼうちょう)司令官など軍指揮部は、弾劾審判の証人として出廷した際、検察調書や起訴状の内容を否定した。現行の刑訴法を適用すると、尹大統領を弾劾する証拠や根拠が減ることになる。
しかし憲法裁は「弾劾審判は刑事裁判ではなく憲法審判」だとし、刑事訴訟法とは別個に、当事者が同意しなくても調書を証拠として採択できるという立場を固守している。検察調書の証拠採択は朴槿恵(パク・クンヘ)元大統領の弾劾事件の際に確立した先例で、当事者が検察の取り調べで署名・押印したのであれば正当性にも問題はない、という趣旨だ。
だが法曹界からは「調書の証拠能力は法律によって判断すべきであって、裁判官が任意に決定してはならない」との批判が出た。朴・元大統領の弾劾審判で主審を務めた姜日源(カン・イルウォン)元裁判官は最近、メディアに寄稿した記事で「証拠能力が制限された現行法下において、検察調書の証拠(能力)調べはかつてよりも厳格な手続きに基づいて行われるべき」と指摘した。
裁判所長出身のある弁護士は「法理と証拠能力を厳格に問う裁判官は検察調書をむやみに証拠として採択はしないだろう」としつつ「調書が証拠から抜けたら、尹大統領を弾劾するかどうか、どういう結論が出るか分からない」と語った。
パン・グクリョル記者、パク・ヘヨン記者