ユーチューブ上の陰謀論と戦う丸尾牧・兵庫県議【東京支局長コラム】

 4月23日にインタビューに応じた丸尾牧・兵庫県議会議員は話を始める直前にポケットに手を入れ、小型のボイスレコーダーで録音を始めた。90分間のインタビューを終えると「一緒に写真を撮りましょう」と言ってきたので快く応じた。韓国の新聞記者からのインタビューは議員としての活動のためではない。ユーチューブやX(旧ツイッター)などに広がるありとあらゆる誹謗(ひぼう)中傷や陰謀論に苦しめられてきた丸尾議員にとっては特派員も「捏造(ねつぞう)するかも知れない危険な人物」だ。そのため二人で実際に会ったことを示す証拠写真が必要だったのだろう。

【写真】取材に応じた丸尾牧議員

 極度の警戒心を示していた丸尾議員と別れる際、ある声をかけようとしたがやめた。それは「どうか最後まで死なないで耐え抜いてください」だ。「死」という言葉を使うのはなぜか怖かった。丸尾議員は今年1月に自殺した竹内英明・兵庫県議会議員と同じく今も兵庫県議会議員を務めている。二人は昨年、斎藤元彦・兵庫県知事のパワハラや横領疑惑が発覚した際に県議会議員として真実の解明に乗り出した。きっかけは兵庫県のある職員の告発と犠牲だった。この職員は斎藤知事を告発した直後、知事側から「うそつき」とレッテルを貼られ、懲戒処分を受けたため「死をもって抗議する」との遺書を残して自殺した。これがきっかけとなり、300人以上の県庁職員が実名で斎藤知事のパワハラについて証言した。県議会は議員の満場一致で斎藤知事の不信任案を可決した。

 丸尾議員と自殺した竹内元議員の地獄はこの時から始まった。昨年11月の再選挙に立候補した斎藤知事を支持する選挙ユーチューバーらは「既得権という巨大な闇に一人立ち向かった斎藤」というフレームを作り上げ、また二人の県議会議員に対しては「警察や反社会勢力、メディアと結託して斎藤知事に最初からない容疑をかぶせた黒幕」などと攻撃を始めた。

 ユーチューバーらは「告発後に自殺した職員は10人の女性と不倫関係にあったが、1人はおかしかったようだ」「遺書は誰かが代筆したらしい」「捏造した人間が丸尾といううわさもある」などとも主張した。誹謗中傷に苦しみながらも丸尾議員と竹内元議員は有権者の正しい選択を望んだが、斎藤知事の支持者らは「パワハラ疑惑は捏造」というユーチューバーらの陰謀論を信じた。斎藤知事が45%の得票率で再び当選すると、ユーチューブ上の誹謗中傷はさらにひどくなった。耐えられなくなった竹内元議員は1月18日夜に自殺した。

 仲間の死について丸尾議員は「彼と私が取るべきだった選択の中で、何が最善だったのかは分からない」と語る。死なずにユーチューブの誹謗中傷や攻撃に耐える人生を選択した自分への哀れみだった。丸尾議員は「今も『死ね』という電子メールが来ます。もしかしたら永遠にユーチューブ上のうそと戦うことになるかもしれません」との思いも語った。先月丸尾議員は「自殺しろ」「お前はくずだ」など1万2000件の電子メールを送り付けた送信者を「業務妨害容疑」で警察に告発した。「死なずにいる者の悲しみ」(ベルトルト・ブレヒトの詩)はまさに彼のための言葉で、今日も彼は誰かの前でポケットの中にあるボイスレコーダーのスイッチを入れているはずだ。

 大統領選挙を控えた韓国の現状に思いをはせた。韓国の有権者はSNSの陰謀論に惑わされない賢明さを持つと信じたい。

成好哲(ソン・ホチョル)東京支局長

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