犯行は徐々に大胆になっていった。同年10月にBはCに情報員を送ってネックレス、腕時計、ボタン式の隠しカメラなどを手渡し、機密資料を撮影するよう求めた。情報とその見返りをやりとりする取引のような形も、後に「デッドドロップ」に変わった。デッドドロップとは事前に約束した場所に機密と金品を隠しておき、ひそかに持ち去るスパイの手口だ。Bは昨年3月にTHAAD関連、台湾情勢、韓米連合訓練などに関する資料を要求し、その際「THAADや米国関連の情報が一番良い」と伝えてきたという。
Cが防諜当局に摘発されたのはその頃だ。Cが以前のように情報提供に積極的な態度を示さなくなったため、Bは情報員のAを送った。直接会って信頼を重ね、情報を奪うためだった。Aは昨年5月31日に済州空港を通じて入国し、事前に指定したあるペンションに翌日到着した。Aは「これまで本当にありがとう」と伝え、より多くの情報を求めた。しかしAが会った人物はCではなく防諜当局の関係者だったが、その場ではAを逮捕しなかった。確実な証拠を確保するため、より機密性の高い情報提供をちらつかせる一種の「おとり捜査」が始まったのだ。
防諜当局は彼らの犯行を6カ月にわたり追跡した。BはAを通じてセキュリティー対策が施された携帯電話、5000ドル(約74万円)が入った封筒、キャッシュカードなどを手渡し、核作戦指針の資料や韓米合同軍事演習「乙支フリーダムシールド(UFS)」関連の資料など、非常に価値の高い情報を要求した。
ところが昨年12月3日の非常戒厳令宣布で韓国軍が非常事態になると、Bは焦るようになった。今年1月にBはCに「3月最終週の土曜日にAを済州島に送る」と伝え、最後の取引を行おうとした。2024年以降は韓米合同「作戦計画5030」関連の資料など、要求内容も非常に具体的になった。今年3月27日に済州島に入国したAはCを装った防諜当局関係者に会い、2件の軍事機密が記録されたUSBメモリーをわしづかみにした直後に現場で逮捕された。
事件を担当した検察は4月25日にAを拘束した状態で起訴した。Cは今も除隊していないため軍検察が引き続き捜査を行っている。CがBに提供した軍事機密は合計21件で、BはCに現金3320万1000ウォン(約346万円)と1万2000ドル(約177万円)を渡したことが分かった。現行法でスパイ容疑は敵国(北朝鮮)にのみ適用可能なため、軍事機密保護法違反容疑が適用されたという。
朱晋佑議員は「中国など外国によるスパイ行為は断固として処罰すべきであり、これを防ぐ対策を準備しなければならない」とコメントした。
イ・ミンジュン記者