5月27日に行われた韓国大統領選候補者による3回目のテレビ討論会で、最大野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)候補が自身の持論である「ホテル経済論」を巡り「韓国銀行(中央銀行)の冊子にも出てくる事例だ」と主張した。先日の討論ではボブ・マクティア元ダラス連邦準備銀行総裁とドイツの金融ジャーナリスト、ルーカス・ツァイゼ氏(Lucas Zeise、1944-)の言葉を「ホテル経済論」の根拠として挙げたが、今度は韓国銀行まで登場させたのだ。
李候補が言及した韓国銀行の資料は、韓国銀行が昨年12月に刊行した「韓国銀行と支給(支払い)決済制度」と題する全40ページの冊子だ。韓国銀行は「支払い、決済、清算の意味を知ろう」という部分で次の事例を紹介した。
「ある村に旅行者が現れ、1泊分の費用5万ウォン(約5300円)紙幣を宿のオーナーに支払った。オーナーは精肉店の店主にツケの5万ウォンを返し、精肉店の店主は養豚業者に5万ウォンを返した。養豚業者も飼料専門店にツケの5万ウォンを返済し、飼料専門店の主人は宿のオーナーに借りていた5万ウォンを返した。旅行者は部屋が気に入らないと言って5万ウォンを返金してもらい、村を去っていった。5万ウォン紙幣で、村の人々は商品やサービスを販売することなく各自の債務を解消した」
韓国銀行は、5万ウォン紙幣が村の中を回って借金が解消されるという例を挙げて、決済資金が不足している決済システム参加機関に対して中央銀行が一時的にお金を貸し出す理由を説明している。韓国銀行の幹部関係者は「宿にお金が入って消費が増え、景気が活性化するという文脈では全くない」とした上で「通貨を発行し、支払・決済システムを運営する中央銀行としての韓銀の役割を分かりやすく説明するために例を挙げただけだ」と話した。
李候補が「ホテル経済論」で主張したように、「お金が入ってくれば百パーセント消費に回り、人々がチキンを買ったり文具を買ったりして新たな需要が生まれる」という例は、韓国銀行の冊子には全く書かれていない。最初にお金を投入してそれを後で抜いても経済が回るという部分も、韓国銀行の冊子には出ていない内容だ。李候補は客がホテルに予約金を入れて後でキャンセルしたとしても、経済の各主体の間では所得が増えて消費が促進され、結果的には村に入ってきたお金がゼロでもお金が回って村の商圏が活性化されると主張してきた。
この日の第3回討論には、李候補がホテル経済論の根拠として言及したルーカス・ツァイゼ氏を巡っても論戦が展開された。ツァイゼ氏はドイツ共産党(DKP)の機関紙「UZ」の編集長を務めた人物だ。マルクス主義的な視点から金融資本主義を批判する研究などを続けてきたことで知られる。
ユ・ソヨン記者