ソウルは、世界で最も強力な文化コンテンツ輸出国である韓国の首都だ。K-POPは純粋な音楽というジャンルを飛び出し、グローバルブランドとなった。ソウルはBTS(防弾少年団)、BLACKPINK(ブラックピンク)、Stray Kids(ストレイキッズ)、NewJeans(ニュージーンズ)など、名前を聞いただけで世界中のファンが歓喜するアーティストを多数生み出した都市だ。ところが、そのアーティストのための公演会場はソウルにはない。正確に言えば、音楽に特化した「専用アリーナ」がないのだ。ソウル北部の倉洞(ソウル市道峰区)に2027年にアリーナが誕生する予定だが、複合的な文化クラスターになり得るレベルのアリーナではない。
【写真】 昨年の東京ドーム公演で約9万人を動員したNewJeans
ソウルで1万人を収容できる屋内コンサート会場は蚕室室内体育館、KSPOドーム(旧オリンピック体操競技場)くらいしかない。これさえも、スポーツイベントや行政的な使用に優先権があるため、ライブ・コンサートを企画する際に大きな制約を受ける。結局K-POPのアーティストたちは、日本のドームツアーや米国のスタジアムツアーを優先的に企画し、ソウル公演の日程はそちらに合わせて調整されるか、そもそも実施されないこともある。文化の都にステージがないというのは文化主権の欠如というほかない。Kカルチャー(韓国文化)を経験したい世界中のファンにとって、ソウルは「目的地」ではなく「出発地」にとどまっている。
■コンサートは産業であり経済だ
2024年にテイラー・スウィフトが開催した世界ツアーは、「ライブ・コンサート産業は経済だ」ということを強く認識させてくれた。シンガポールではテイラー・スウィフトによる計6回の公演で3億ドルの経済効果が生まれ、観光収入は前年同期比で50%以上増えた。この都市国家はテイラー・スウィフトの公演を見に来た外国人観光客であふれ返った。宿泊・交通・外食・ショッピングなどへの支出がシンガポールの経済を動かした。
かつて米ホワイトハウスで大統領経済諮問委員会の委員長を務めたアラン・B・クルーガー氏の著書『ROCKONOMICS 経済はロックに学べ!』によると、音楽産業の中心はライブ・コンサート関連の収益へとシフトした。デジタル技術によって、音楽は無限に複製可能な「公共財」となったため、音源(CDなど)にはもはや希少性はない。しかし、ライブ・コンサートには時間と空間に制約があるため「唯一無二の経験」としての価値を持つ。ビートルズのメンバーだったポール・マッカートニーも、音源収入よりコンサート収入の方が多いほどだ。
このような変化は「音楽は今後、電気や水道水のようになる。ライブツアーだけが、アーティストが収益を生み出せる最後のチャンスとなるだろう」(デヴィッド・ボウイ)という言葉に要約される。ストリーミングが主流の時代となり、上位1%のアーティストが全再生数の90%を占め、上位5%がライブ収益のほとんどを手にする「スーパースター経済学」が現実となった。ソウルのK-POPアリーナは、このような構造の中でより多くのアーティストに「登場できるステージ」を提供するものであり、K-POP産業の底辺拡大戦略の一環でもあるのだ。
■「ソウルが芸を生んでいるのに、収益は東京に流れていく」
ソウルがアリーナを作るのであれば、ライブ・コンサート会場を一つ建設して終わりにしてはならない。日本の東京は、ライブ・コンサート産業全体を都市構造の中に統合した代表的なケースだ。東京は周辺都市まで含めて大型スタジアムと中型の公演会場が有機的に結びつき、ライブ・コンサート産業の多層的な生態系を形成している。
例えば、東京ドーム(5万5000人)、日産スタジアム(7万2000人)、新国立競技場(6万7000人)は、K-POPのスターたちが数万人の観客を動員できるスタジアム型の公演会場だ。2024年にはブルーノ・マーズやテイラー・スウィフトがこの場所で公演を開催し、K-POPアイドルグループも続々とこれらのスタジアムに進出している。東京はこのような大型の空間を基盤に「スーパースターのツアー」を呼び込む産業的条件を備えているのだ。
その土台を支える中型の公演会場も体系的に分布している。埼玉スーパーアリーナ(2万-3万人)、横浜アリーナ(1万7000人)、Kアリーナ横浜(2万人)、有明アリーナ(1万5000人)、東京ガーデンシアター(8000人)などは、2010年以降にリノベーションまたは新築によって誕生した高品質の施設で、K-POPアーティストの公演も頻繁に開催されている。
このような公演会場は音響設備、アクセスの良さ、ファン専用ブース、グッズ販売スペース、周辺の商業施設との連携など、ライブ・コンサート自体を一つの産業化されたパッケージとして受け入れている。アーティストには最適なパフォーマンス環境を、ファンには滞在する理由と消費する空間を提供する。一つの公演が都市全体の宿泊・交通・外食・ショッピングの売り上げをけん引しているようなものだ。K-POPファンはK-POPのライブを見に東京へ行く。「芸はソウルが生み出し、金は東京が稼ぐ」という言葉が出るのもそのためだ。