ソウル地下鉄5号線の車両内で60代の男が火を付け、乗客約400人が地下トンネルに避難するという事件が発生したが、大きな被害はなかった。地下鉄放火は乗客の密集度が高く、避難が難しいという特性上、まかり間違えば大惨事につながりかねない。2003年の大邱地下鉄放火事件の時には192人が死亡した。しかし、今回は避難の過程で乗客約20人が軽傷を負っただけだった。
【表】22年前の大邱地下鉄放火事件と今回のソウル地下鉄放火事件の違い
大邱地下鉄放火事件の時は、座席など車両内装材のほとんどが燃えやすい素材だったため、火事発生から2-3分後に炎に包まれた。このため同事件後、政府と自治体が電車の床材や座席などを不燃性あるいは難燃性の素材に交換した。今回の火災では乗務員も乗客も安全規則通り迅速かつ落ち着いて対応した。22年前の事件を教訓に、実質的な備えをした結果、大惨事を防いだのだ。
大邱地下鉄放火事件の時、乗務員は火災発生を管制室に知らせなかったため、後続列車が状況を知らないまま進入し、死傷者が増えた。乗客も車両内の消火器を使用できず、右往左往した。しかし、今回の火災では、乗客が非常電話で乗務員に状況を知らせた後、車両の椅子の下段にある非常開閉装置で列車のドアを開けた。乗務員は安全規則に従って直ちに管制室に知らせ、案内放送を2回した後、乗客と消火器で火災を鎮圧した。ソウル交通公社の永登浦乗務事業所は約1カ月前、今回と同様の状況に備えた訓練を実施していたとのことだ。
専門家らは「事件・事故発生前にどこか1部門でも基本を守って備えれば、大惨事はある程度防ぐことができる」と話している。韓国ではこれまで三豊百貨店崩壊事故、貨客船セウォル号沈没、梨泰院ハロウィーン雑踏事故などの大型事故が絶えなかった。振り返ってみれば、いつでも事故が起きかねないという認識の下、対策さえ講じていれば避けられる人災だった。韓国政界もそうした思考を政治利用するのに忙しかった。ソウル地下鉄で今回発生した放火事件を、そのような姿勢から脱却し、より一層強化された安全態勢を整えるきっかけにしなければならない。