ブレーキ不在の絶対権力・李在明政権誕生、行政・立法府の圧倒的な優位で司法府の大幅な入れ替えも可能

 6・3韓国大統領選挙勝利で発足する李在明(イ・ジェミョン)政権は、1987年の大統領直選制改憲以降、最も多い議席数を確保した与党の支援を受けることになる。進歩(革新)系の「共に民主党」は韓国国会の299議席中170議席を有して単独過半数を占め、祖国革新党など汎(はん)与党圏を合わせると189議席で、改憲ライン(200議席)に迫る。この構図は、2028年4月の総選挙まで続く見込みだ。李在明政権は行政・立法府での圧倒的な優位を基に、司法府にも親政権傾向の人物を大幅に配置するものとみられる。

【表】李在明大統領に集中する権力

■与党内反対勢力、野党のけん制手段は皆無

 政界関係者は「これまで幾つもの政権が与党多数、野党少数の状態で国政を運営したが、李在明政権の力はその中で最も強い」とし「議席数も多いが、民主党内の反李大統領派と呼べるほどの勢力、野党のけん制手段が皆無だからだ」と語った。かつて金泳三(キム・ヨンサム)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クンヘ)政権が与党多数、野党少数の状態でスタートしたが、議席数は153議席から163議席という水準だった。また、与党内に複数の派閥が存在し、党と政権が単一の隊列を組めないことも多かった。これに対して、今の民主党において「反・李在明」ないし「非・李在明」系と呼び得る勢力は事実上消滅した状態だ。李大統領がこれまで長期間にわたり、党代表として親李在明系を中心に党を運営してきたからだ。

 民主党は、李大統領の任期当初から「李在明印」の法案の単独処理を予告している。野党側の関係者は「過去にも与党多数、野党少数の政権は多かったが、当時は与野党合意という大前提を基に国会が運営されるべきというコンセンサスがあった」としつつ「だが、先の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権では多数派の民主党が一方的に法案を通過させるなど、こうした原則はかなり崩れ、民主党が与党になった後もこうした基調は続くだろうとみられる」と語った。民主党は昨年の総選挙で勝利した後、国会議長はもちろん法制司法委員長と運営委員長のポストまで独占した。国会議長と法制司法委員長の所属政党が別であれば、特定政党の法案強行処理にブレーキがかかるが、同一の場合にはこれをけん制する方法がない。

■物議を醸した法案も難なく通過可能

 尹錫悦政権は、このような民主党の立法強行に大統領の拒否権で対抗したが、李在明政権では党と政権の意見が一致しているので、国会を通過した法案はそのまま施行される見込みだ。民主党は既に、李大統領の公式就任翌日の6月5日から国会を開きたいとして、「6月臨時国会召集要求書」を国会に提出した。大統領に当選したら刑事裁判を停止するという内容の刑事訴訟法改正案、李大統領の公職選挙法違反事件の裁判で免訴判決を可能にする選挙法改正案などの処理に乗り出すだろうという見方がある。李大統領の司法リスクを法改正で除去するというわけだ。

 民主党が、KBS・MBCなど公営放送の支配構造を変える「放送3法」の改正に乗り出す可能性もある。学界や記者、プロデューサー連合会、市民社会団体に公営放送の取締役推薦権を与えるという内容が骨子だ。野党側は、この法案は親与党系団体に近い人物を取締役に加えて公営放送を掌握しようとする内容だ、と批判している。与党に親和的な言論環境まで造成しようと狙っているのだ。民主党は、社会的争点が完全には解消されていない「黄色い封筒」法案、商法改正案などについても処理を予告している。李大統領は、候補時代に商法改正案について「もう少し補完してしっかり適用すべき」「就任後2-3週のうちに処理する」と語っていた。いずれも、支持層を強固にするための法案だと解されている。

 民主党からは、各種の特別検察官法案を処理しようという主張も出ているが、いずれも野党側を狙ったものだ。尹錫悦・前大統領と金建希(キム・ゴンヒ)夫人を狙った「内乱特検法」や「金建希特検法」などを、既に今年4月に国会本会議へ上程している。2023年の集中豪雨で行方不明者の捜索作戦中に殉職した海兵隊員の事件に関連した疑惑を捜査する特別検察官法案も、民主党は通過を公言してきた。野党側の人物が大規模に捜査対象に上がり、李在明政権へのけん制はますます萎縮する見込みだ。

■司法府の大幅な入れ替えも可能

 行政・立法府をけん制する司法府もまた、大幅に入れ替えられる可能性がある。大法院(最高裁に相当)は大法院長(最高裁長官に相当)・大法官(最高裁裁判官に相当)13人体制で運営されているが、現在のところ中道・保守11人、進歩2人という構成になっている。李大統領の任期中に、このうち9人が任期満了で交代する。任期が満了する大法官のうち7人が中道・保守系に分類されるが、これが全て政権寄りの人物に代わるとしたら、大法院の全員合議体の傾向は中道・保守4人、政権寄りの進歩9人に再編される。加えて、民主党が立法を通して、大法官の数そのものを30人前後に増員する可能性もある。民主党は、どのような方式で大法官を増員するのか具体的に明らかにしてはいないが、一部の議員は「市民団体の推薦」で大法官を任命することもあり得ると主張してきた。既存の大法官の構成・任期と関係なしに親与党系の大法官が大幅に増えることもあり得る、という意味だ。

 憲法裁判所もまた、「進歩優位」がほぼ確定する見込みだ。現在の憲法裁は7人体制で、中道・保守4人、進歩3人という構成になっている。李大統領の在任中に、空席であったり任期が満了したりする大統領・大法院長指名分の裁判官ポストに全て進歩系の人物が任命された場合、憲法裁は中道・保守2人、進歩7人の体制に再編される。

 李大統領は、憲法機関の監査院についても改憲を通して国会所属とする改憲案を提案している。監査院は、権力をけん制できる「査定機関」だが、国会の傘下に編入されることで多数与党の意に沿って動くことになりかねない、という批判が出ている。今回の大統領選挙で判明した民意が維持されれば、来年6月に予定されている地方選挙でも与党が勝利する可能性が高い。政界関係者は「立法・司法・行政の三権はもちろん地方権力まで与党が持っていくことで、いまだかつて経験したことのない絶対権力が誕生する」と語った。

 イ・ジュンハン仁川大学教授は「李在明政権は発足当初の権力が民主化後の歴代政権の中で最も大きい」としつつ「だが、これを基に独走をするようになれば反作用があり、これをいかにうまく解決していくかが李在明政権の運命を決めるだろう」と語った。

梁昇植(ヤン・スンシク)記者、キム・ギョンピル記者

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