「憲法第84条に基づく措置です」 李在明大統領の刑事裁判延期、説明はわずか14字【記者手帳】

「憲法第84条に基づく措置です」

 ハングルでわずか14文字だった。6月9日に李在明(イ・ジェミョン)大統領の公職選挙法違反事件破棄差し戻し審の裁判部が、裁判の中断に伴ってメディア向けに表明した中断理由だ。この事件は、先に大法院(最高裁に相当)が有罪の趣旨で判決を下しており、とりわけ国民的関心が集中していた。裁判が継続されて罰金100万ウォン(現在のレートで約10万5000円)以上の刑が確定すれば、李大統領が職を失うこともあり得るからだ。

【写真】就任を祝う市民にハートポーズで応える李在明大統領

 大統領の在職中の不訴追特権を定めた「韓国憲法84条」により、大統領になる前に受けていた裁判まで中断されるのかどうかは、大統領選挙の過程で終始熱い論点になっていた。ところが裁判所はこの論争の終止符を打つにあたって、憲法84条の内容が何なのか、なぜこれを根拠に裁判を止めるべきなのか、一行の説明もなかった。

 翌10日、李大統領の「大庄洞裁判」を中断したソウル中央地裁刑事33部は、公式発表すらきちんとしなかった。裁判所の電算システムで期日が「追って指定する」に変更されたのを見て報道陣が問い合わせると、「被告人・李在明の部分は『憲法84条』を適用した」と回答した。虚しくなるほどに簡単な回答だった。法理解釈もなく、最小限の誠意も見せないせいで、「裁判所が法ではなく政治的判断をした」「政権の圧力を受けて勝手に法を曲げた」といった批判が出た。

 裁判所はいつもこんな風だった。親切でも厳重でもなかった。単に権威的なだけだった。今年1月、ソウル西部地裁は当時の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する勾留状を発付した際に「被告人が証拠を隠滅する恐れがある」とだけ表明した。現職大統領を勾留する理由の説明を、たったハングル15文字で済ませたのだ。これに憤激した尹大統領の支持者数百人が裁判所に乱入し、判事室を破壊するという暴動事態も引き起こされた。

 似たような論争があった米国の司法府は違っていた。ドナルド・トランプ大統領の「不倫の口止め」事件を担当したニューヨーク・マンハッタンの刑事法廷は今年1月、当時のトランプ当選者の有罪を認めつつも処罰はしないとする「無条件的釈放」を宣告した。その上で、およそ7分30秒にわたって量刑趣旨を説明した。当時の判事の説明は、法廷で録音されてメディアやオンラインに公開された。

 トランプ大統領の「議事堂暴動」扇動容疑等を捜査・起訴したジャック・スミス連邦特別検察官(当時)は、トランプ大統領が再選に成功するや、1850字からなる「起訴取り消し申請書」を出し、裁判所はこれを受け入れた。

 司法府の存立基盤は国民の信頼だ。国民を納得させようとする努力すらしない韓国の裁判所は、「司法改革」という名分の下で政治権力に踏みにじられる羽目になった理由を、あらためて考えてみるべきだろう。

キム・ウンギョン記者

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  • ▲ソウル市瑞草区のソウル中央地裁。/写真=NEWSIS

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