李在明(イ・ジェミョン)大統領は23日、韓国国防部(省に相当)長官に与党・共に民主党の安圭伯(アン・ギュベク)議員を指名した。軍人出身ではない安圭伯議員が正式に就任すれば、5・16軍事クーデター(1961年5月16日)以来64年間で初めての文民国防長官となる。安圭伯議員は2008年の初当選からこれまで当選5回を数えるが、その間は国会国防委員会に継続して所属し、国防委員長も務めた。韓国軍と国防部をよく知る政治家として与野党双方から高い評価を受けているため、今回の人事は至極合理的と言えるだろう。
【写真】共に民主・安圭佰議員、韓米日の対潜水艦戦訓練の日時と位置を事前公表
李在明大統領は選挙戦での遊説などで「今後は国防長官も民間人を任命するのは望ましくないだろうか」との考えをすでに表明しており、また韓国軍関連の公約でも「国防長官文民化」を第一に提示した。このような考えに至ったのは昨年12月の非常戒厳令当時、元韓国軍関係者らが後輩の率いる部隊を動員したためと考えられる。軍に対する文民統制が成功したとされる米国では除隊から7年以上過ぎないと国防長官にはなれない。ところが韓国では予備役編入から1時間で国防長官に就任したケースもあった。そのため民間人による韓国軍統制経験は事実上なかったと言えるだろう。
5・16以来、39人いた国防長官は全員が元将校で、うち33人は陸軍出身だ。大統領府安保室長、国防長官、合同参謀本部議長が同じ士官学校の先輩後輩だったケースもある。学閥、軍種、軍務地ごとの因縁が絡み合った人脈が韓国軍内部で形成され、親しい間柄で要職が占められてしまうと組織は硬直化し、革新は起こりにくくなる。内輪の人間にばかり好待遇を与えると変化を求める声に応えられなくなるからだ。文民国防長官が型にはまった韓国軍に新たな風を吹き込み、革新を起こし、戒厳により失墜した士気を向上させることを期待する国民も多いことだろう。
これまで国防長官が韓国軍出身者ばかりだったのは南北分断という現実とも無関係ではない。国防長官は韓国軍の人事や行政権はもちろん、作戦の指揮権も与えられており、また有事には合同参謀本部議長と共に陸海空軍の参謀総長を指揮しなければならない。安圭伯議員がたとえ国会国防委員を長く経験し、韓国軍の内部事情に明るいとしても、作戦まではよく分からないはずだ。また部隊を自ら直接指揮し、統率した経験もない。現在韓国軍は核武装した110万人の北朝鮮軍と対峙(たいじ)しており、哨戒艦「天安」爆沈や延坪島砲撃など北朝鮮による挑発行為も続いている。国民としては韓国軍出身者ではない国防長官が就任すればやはりある程度の不安は残るだろう。
文民国防長官が任命された場合、専門家は「韓国軍の作戦については合同参謀本部議長の権限を保障することが必要」と指摘する。軍事面で危機的状況に直面した場合、作戦について把握していない国防長官が自らの考えに固執するとか、政治の影響を受けた状態で指揮権を行使すれば大きな混乱を引き起こす恐れもある。そう考えれば韓国でも米国のように文民国防長官と合同参謀本部議長のバランスが必要になるだろう。安圭伯議員が今後韓国軍を強大な専門家集団に生まれ変わらせ、韓国軍に対する文民統制を成功させたと評価されることを期待したい。