尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が北朝鮮の挑発を誘発しようとした疑惑を捜査している内乱特別検察官(特検)が、平壌ドローン作戦に対して刑法の一般利敵罪を適用するという。外患誘致罪は敵との共謀があって初めて適用できるものなので駄目だから、探し出したのが一般利敵罪というわけだ。それでも、平壌のドローンが北をどのように利したのかもあいまいだという点は変わらない。
平壌への無人機潜入が戒厳の名目にするために北の挑発を誘発しようとするものだったのか、それとも当時南北双方の間で熾烈(しれつ)に繰り広げられていた軍事作戦の一つなのか、まだ証拠に基づいて確認されたものはない。特検は、当時大統領室が軍の指揮系統を無視して直接ドローン作戦司令部(ドローン司)に無人機潜入の指示を下したとみているという。
逆に、キム・ヨンデ・ドローン作戦司令官側は、取材陣と対面して「平壌ドローン作戦と非常戒厳は何ら関連がない」「合同参謀本部(合参)の指揮に基づくもの」と主張した。「全て現場アリバイがある」「平壌ドローン作戦は11月中旬に終わったが、戒厳宣布用だとしたら、戒厳直前にもっと熱心にやるべきではないか」とも述べた。
だが、キム司令官も知らない合参よりさらに上のラインの内幕があるのかもしれない。いずれにしても、今は両方の可能性について、どちらもあるという状況だ。なのに特検は、具体的な証拠や証言が見られないにもかかわらず、捜索令状に「一般利敵罪」を明示した。「北の挑発を誘発するため」という前提に立ったのだ。
キム司令官側は「当時(北朝鮮の)汚物風船が飛来し続けている状況において、規定通りに進めた作戦だった」「南北双方の間で無人機偵察は何度となく行われている」と語った。実際、北朝鮮は尹・前大統領の就任直後、5機以上のドローンをソウル上空に潜入させ、大統領室近くまで接近させる大胆な挑発を行った。キム司令官は、平壌ドローン作戦はこうした北の挑発に対応するものだったと言っているのだ。確かに、対応しなければ軍隊ではないだろう。キム司令官は「作戦失敗がどうして故意の利敵行為につなげられるのか、納得し難い」とも語ったという。一理ある。
キム司令官の弁護人は「キム司令官が『およそ30年、国のために献身したのに、一瞬でスパイになって悔しい』と打ち明けた」と伝えた。キム司令官の抗弁にはうなずける部分があるという点で、特検は「平壌ドローンは戒厳のための北朝鮮挑発誘導用」という証拠と証言を国民に提示する必要がある。政治的に利用して後で無罪になっても、単にそれでおしまい、というのでは駄目だ。